例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
「ちょうど今、秋元さん宛てに、電話が掛かってきてるんだよ。」
「え、私にですか――?」
直ぐに自転車を脇に停めて、沙耶は促されるまま、家の中に入って、保留になっている受話器を取った。
「もしもし、お待たせしました。秋元ですけど……」
《あー、良かった!私です、廣井です!》
電話の相手は、先日訪ねて来た秋元家の顧問弁護士だった。
「あ、廣井さん。どうもお世話になっています――」
《あぁ、いやいや……あの、ですね、要件ばかりで申し訳ないんですけど、なるべく近い内にこちらに来ていただく事は可能でしょうか?》
「え?」
廣井の急かすような言葉に、沙耶は首を傾げる。
なんなら昨日行ってきたばかりなのだ。
その時に廣井は鍵をくれた位で、何も言っていなかったのに。
「あの、書類に何か不備でも?」
《いや――違います。書類に関しては不備はないですし、あったとしてもこちらで処理すれば良いだけのことですから。そうではなくて、ですね……》
言いづらいのか、廣井の歯切れが悪い。
「そうではなくて?」
《会社の、方で、ですね……軽く……何と言いますか……ストライキ、みたいな事が起きてしまっていて。》
「え!?」
《ああいやいや、表現がいけなかったですね。何と言いますか、残った幹部の方達が、秋元さんに会って話がしたいと……納得する理由がない限り、働きたくない、と仰っていまして……》
それは間違いなくストライキだろう。
「そう、ですか……あの……それで、近い内っていうのは、どの位を目安にそちらに行けば良いですか。」
廣井の様子からして、余裕はなさそうだと思い、沙耶が訊ねると。
《――可能でしたら、本日中がよろしいかと……》
廣井の答えに、沙耶は心配そうに見守るこの家のご主人と顔を合わせたまま、その場に立ち尽くしてしまった。