ブラックコーヒーに角砂糖一つ
あのシークレットバタフライのママ、水島八千代が逮捕され、ジョーシーを殺したと見られている男が逃亡した。 この先、何が起きても不思議じゃないな。
京子は表情を変えずに肝を齧っている。 俺はその隣で考え込んでいる。
「今夜も飲むねえ。」 「そうかい? この店は落ち着くからなあ。」
「あんたも仕事がうまくいけばいいがなあ。」 「そうなんだ。 それだけが心配でね。」
もう午前0時は過ぎている。 辺りは真っ暗だ。
そこへ一人の女が、、、。 「こんばんは。 よろしいですか?」
ほっそりした顔の若い女である。 「ああ、どうぞ。」
親父さんは少し身構えながら空いている席を指差した。 「何を焼きましょうか?」
「お任せします。」 静かな女はそう言うと日本酒を口に運んだ。
(この時間に一人で歩いているなんて度胸の据わった女だな。) 京子の肩越しに女の顔を眺めてみる。
OLではなさそうだし、だからといって風俗系でもなさそうだ。 静かに肝を食べながら物思いに耽っている女の横顔を見た時、(おや?)と思った。
どことなく和子に似ているんだ。 人違いだとは思うけど。
「どうしたの?」 不思議そうな京子が聞いてきた。
それで隣を指差してみる。 「、、、。」
京子はチラッと女を見詰めてからスマホに目を戻した。 やがて2時を過ぎた頃、、、。
「さあ、出ましょうか。」 俺たちは二人で次郎衛門を出た。
その時、あの女も俺たちを追い掛けるように店から出てきた。 「今日も休むかな。」
「そう? じゃあマンションに居ればいいわ。」 「京子はどうするんだ?」
「午前中は大事な会議が入ってるからそこだけは抜けられなくて、、、。」 「じゃあ部屋で待ってるよ。」
店の前でタクシーを待っていると女が一礼して歩き始めるのが見えた。 「知ってる人?」
「どうなんだろう? どっかで見たような記憶は有るんだけど、、、。」 ところが次の瞬間、その女は俺たちの前から蒸発するように消えてしまったんだ。
「え? こんなことって有るの?」 「消えたってことはもしかして幽霊?」
「怖いこと言わないでよ。 私は幽霊なんて大嫌いなんだから。」 京子は思い切り俺にしがみ付いてきた。
一瞬振り向いた女の顔に俺はドキッとした。 和子だったからだ。
(和子が何ゆえに?) 酔った頭では答えなんて出てこない。
酔いが覚めるまで答え合わせはお預けだ。
やがてマンションに俺たちは帰ってきた。 携帯には妻からのメールが届いていた。
俺は酔った頭で京子を抱いた。 あの時よりも激しく、あの時よりも優しく、、、。
すっかりご無沙汰の妻には完全に呆れられてしまっていて今夜も友達の家に泊るらしい。
その友達は未亡人らしくご主人は10年前に死んだんだそうだ。 俺はどうなんだろう?
鳴くことも飛ぶことも無く地面を這い回っている。 そしていつの間にか秘書だった京子と愛し合っていた。
そんなんでいいのだろうか? 和子を亡くして以来、子供のことも考えなくなった夫婦である。 それだからか、最近は抱くことも喧嘩することも無くなってしまった。
しかし、そんな俺の前に和子が現れたのだ。 意味が無いわけじゃない。
会社も傾きかけているし妻ともうまくいかない。 こんなんでいいのか?
朝になった。 俺は酔った頭で素っ裸のままベッドの中で夢を見ている。 だから京子が出掛けたのにも気付かなかった。
それがどうだろう? ドカーンというものすごい音で目を覚ましたんだ。
(何だ? 今の音は?) そろそろと窓に近付いてみる。
するとマーガレットの屋根が見事に吹き飛んでいた。 「証拠隠滅かな?」
そうは思ったがどうも違うようにすら感じる。 とすればいったい、、、?
(何ゆえにマーガレットが?) 考えても分かる訳も無く俺はまた布団に潜り込んだ。
どのくらい時間が経ったのだろう? 目を覚ますと京子が帰って来ていて落ち着いた顔で紅茶を飲んでいた。
「お目覚め?」 「ああ。 やっと目が覚めたよ。」
「派手にやったわねえ。」 「マーガレットか?」
「あそこまでやっちゃうと危ないんだけどなあ。」 「何が?」
「だって桜田組が今回の妙な事件に絡んでるのがばれちゃうじゃない。」 「何で?」
「あのバタフライのママが逮捕されたのもジョーシーが殺されたのもみーーーんな桜田組が絡んでるんだからさあ。」 「おいおい、そこまではっきり言ってもいいのか?」
「構わないわよ。 全てはあの弟が仕組んでたことなんだから。」 「何だって?」
「さあさあ、私たちの推測はここまでにしましょうね。 一般人は立ち入り禁止なんだから。」 京子はカップの紅茶を飲み干した。
そしてパソコンを徐に開いた。 「ニュースが出てるわねえ。」
「何?」 「あの犯人を逃がした人よ。 他の警察署に移動になったんだって。」
「へえ、それだけ?」 「それで、あの人は、、、あらあら空港で捕まってる。」
「何だって?」 「いろいろとやらかしたことにして話を複雑にしてるのねえ。 桜田組ならやりそうだわ。」
「脱走までしたんじゃ相当にやられるなあ。」 「そこまではないわよ。 逃がされたわけなんだし。」
「逃がされた?」 「そうそう。 世間の目を警察に向けさせて逃げ延びる魂胆ね。」
「よく分かるなあ。」 「そりゃあ推理小説を読んでれば分かるわよ。 絶対に不利にならない方法なんていくらでも有るんだから。」
「不利にならない?」 「そうねえ、だからって金を握らせるのはダメね。 跡が残るから。」
「詳しいんだなあ。」 「マニアなだけよ。 さて掃除でもしますか。」
京子はそう言うと掃除機を持ってきた。 居場所が無くなりそうだな。
俺は寝室に入ってベッドに体を投げ出した。 そしたらいつの間にか寝てしまったようだ。
夕方、またまたドーンという音がして俺は目を覚ました。 「今度は何?」
「ああ、マーガレットの店を壊してるのよ。」 「何でまた?」
「どっかに新しい店を出すのねえ。」 「そこでも良かったんじゃないのか?」
「ダメよ。 この店には弟の秘密が隠されてるから。」
「弟の秘密?」 「そうねえ。 これまでに不法入国させた女たちの情報がここに集まってるのよ。」
「何だって?」 「もちろんジョーシーの情報だってここに有るわよ。」
「それをどうして?」 「そんなのをばらされたらとんでもない殺人事件が世間の話題になっちゃうでしょう。 だから、、、。」
「とんでもない殺人事件か、、、。」 「少なくとも15人は殺されてるわ。 ジョーシーみたいにね。」
「何で殺されたんだろう?」 「組の秘密を知ったからよ。」
「じゃあ、あの男も?」 「そこまではやらないわ。 あの男を殺したらマーガレットのママもやばくなるから。」
「複雑だなあ。」 「闇世界は複雑なのよ。 一般人には分からないわ。」
京子は台所に立った。
「さて夕食でも作りますか。」 そう言ってエプロンまで持ち出したから何だか嫁さんを見ているような気になってくる。
「料理 好きなんだねえ?」 「うん。 お父さんが料亭で働いてたから。」
「へえ、、、。」 「なかなかに売れっ子だったのよ。」
「売れっ子ねえ。 料亭じゃあ大変だったろうに。」 「お父さんは夜中もずっと出汁の研究をしてたんだって。」
「そりゃまた念の入れようがすごいな。」 「だからかな、私も満足するまで作り直す癖が有るの。」
そう言いながら野菜を切る。 その手付きは料理人だ。
でもたまにその包丁を私に向けてくる。 「脅かすなよ。」
「ごめんごめん。 びっくりした?」 「心臓が止まったよ。」
「でもまだ死んでないわねえ?」 「そりゃ確かにね、、、。」
京子は時々私を脅かしながら料理を作っていく。 やがてテーブルに美味そうな料理が並んだ。
京子は表情を変えずに肝を齧っている。 俺はその隣で考え込んでいる。
「今夜も飲むねえ。」 「そうかい? この店は落ち着くからなあ。」
「あんたも仕事がうまくいけばいいがなあ。」 「そうなんだ。 それだけが心配でね。」
もう午前0時は過ぎている。 辺りは真っ暗だ。
そこへ一人の女が、、、。 「こんばんは。 よろしいですか?」
ほっそりした顔の若い女である。 「ああ、どうぞ。」
親父さんは少し身構えながら空いている席を指差した。 「何を焼きましょうか?」
「お任せします。」 静かな女はそう言うと日本酒を口に運んだ。
(この時間に一人で歩いているなんて度胸の据わった女だな。) 京子の肩越しに女の顔を眺めてみる。
OLではなさそうだし、だからといって風俗系でもなさそうだ。 静かに肝を食べながら物思いに耽っている女の横顔を見た時、(おや?)と思った。
どことなく和子に似ているんだ。 人違いだとは思うけど。
「どうしたの?」 不思議そうな京子が聞いてきた。
それで隣を指差してみる。 「、、、。」
京子はチラッと女を見詰めてからスマホに目を戻した。 やがて2時を過ぎた頃、、、。
「さあ、出ましょうか。」 俺たちは二人で次郎衛門を出た。
その時、あの女も俺たちを追い掛けるように店から出てきた。 「今日も休むかな。」
「そう? じゃあマンションに居ればいいわ。」 「京子はどうするんだ?」
「午前中は大事な会議が入ってるからそこだけは抜けられなくて、、、。」 「じゃあ部屋で待ってるよ。」
店の前でタクシーを待っていると女が一礼して歩き始めるのが見えた。 「知ってる人?」
「どうなんだろう? どっかで見たような記憶は有るんだけど、、、。」 ところが次の瞬間、その女は俺たちの前から蒸発するように消えてしまったんだ。
「え? こんなことって有るの?」 「消えたってことはもしかして幽霊?」
「怖いこと言わないでよ。 私は幽霊なんて大嫌いなんだから。」 京子は思い切り俺にしがみ付いてきた。
一瞬振り向いた女の顔に俺はドキッとした。 和子だったからだ。
(和子が何ゆえに?) 酔った頭では答えなんて出てこない。
酔いが覚めるまで答え合わせはお預けだ。
やがてマンションに俺たちは帰ってきた。 携帯には妻からのメールが届いていた。
俺は酔った頭で京子を抱いた。 あの時よりも激しく、あの時よりも優しく、、、。
すっかりご無沙汰の妻には完全に呆れられてしまっていて今夜も友達の家に泊るらしい。
その友達は未亡人らしくご主人は10年前に死んだんだそうだ。 俺はどうなんだろう?
鳴くことも飛ぶことも無く地面を這い回っている。 そしていつの間にか秘書だった京子と愛し合っていた。
そんなんでいいのだろうか? 和子を亡くして以来、子供のことも考えなくなった夫婦である。 それだからか、最近は抱くことも喧嘩することも無くなってしまった。
しかし、そんな俺の前に和子が現れたのだ。 意味が無いわけじゃない。
会社も傾きかけているし妻ともうまくいかない。 こんなんでいいのか?
朝になった。 俺は酔った頭で素っ裸のままベッドの中で夢を見ている。 だから京子が出掛けたのにも気付かなかった。
それがどうだろう? ドカーンというものすごい音で目を覚ましたんだ。
(何だ? 今の音は?) そろそろと窓に近付いてみる。
するとマーガレットの屋根が見事に吹き飛んでいた。 「証拠隠滅かな?」
そうは思ったがどうも違うようにすら感じる。 とすればいったい、、、?
(何ゆえにマーガレットが?) 考えても分かる訳も無く俺はまた布団に潜り込んだ。
どのくらい時間が経ったのだろう? 目を覚ますと京子が帰って来ていて落ち着いた顔で紅茶を飲んでいた。
「お目覚め?」 「ああ。 やっと目が覚めたよ。」
「派手にやったわねえ。」 「マーガレットか?」
「あそこまでやっちゃうと危ないんだけどなあ。」 「何が?」
「だって桜田組が今回の妙な事件に絡んでるのがばれちゃうじゃない。」 「何で?」
「あのバタフライのママが逮捕されたのもジョーシーが殺されたのもみーーーんな桜田組が絡んでるんだからさあ。」 「おいおい、そこまではっきり言ってもいいのか?」
「構わないわよ。 全てはあの弟が仕組んでたことなんだから。」 「何だって?」
「さあさあ、私たちの推測はここまでにしましょうね。 一般人は立ち入り禁止なんだから。」 京子はカップの紅茶を飲み干した。
そしてパソコンを徐に開いた。 「ニュースが出てるわねえ。」
「何?」 「あの犯人を逃がした人よ。 他の警察署に移動になったんだって。」
「へえ、それだけ?」 「それで、あの人は、、、あらあら空港で捕まってる。」
「何だって?」 「いろいろとやらかしたことにして話を複雑にしてるのねえ。 桜田組ならやりそうだわ。」
「脱走までしたんじゃ相当にやられるなあ。」 「そこまではないわよ。 逃がされたわけなんだし。」
「逃がされた?」 「そうそう。 世間の目を警察に向けさせて逃げ延びる魂胆ね。」
「よく分かるなあ。」 「そりゃあ推理小説を読んでれば分かるわよ。 絶対に不利にならない方法なんていくらでも有るんだから。」
「不利にならない?」 「そうねえ、だからって金を握らせるのはダメね。 跡が残るから。」
「詳しいんだなあ。」 「マニアなだけよ。 さて掃除でもしますか。」
京子はそう言うと掃除機を持ってきた。 居場所が無くなりそうだな。
俺は寝室に入ってベッドに体を投げ出した。 そしたらいつの間にか寝てしまったようだ。
夕方、またまたドーンという音がして俺は目を覚ました。 「今度は何?」
「ああ、マーガレットの店を壊してるのよ。」 「何でまた?」
「どっかに新しい店を出すのねえ。」 「そこでも良かったんじゃないのか?」
「ダメよ。 この店には弟の秘密が隠されてるから。」
「弟の秘密?」 「そうねえ。 これまでに不法入国させた女たちの情報がここに集まってるのよ。」
「何だって?」 「もちろんジョーシーの情報だってここに有るわよ。」
「それをどうして?」 「そんなのをばらされたらとんでもない殺人事件が世間の話題になっちゃうでしょう。 だから、、、。」
「とんでもない殺人事件か、、、。」 「少なくとも15人は殺されてるわ。 ジョーシーみたいにね。」
「何で殺されたんだろう?」 「組の秘密を知ったからよ。」
「じゃあ、あの男も?」 「そこまではやらないわ。 あの男を殺したらマーガレットのママもやばくなるから。」
「複雑だなあ。」 「闇世界は複雑なのよ。 一般人には分からないわ。」
京子は台所に立った。
「さて夕食でも作りますか。」 そう言ってエプロンまで持ち出したから何だか嫁さんを見ているような気になってくる。
「料理 好きなんだねえ?」 「うん。 お父さんが料亭で働いてたから。」
「へえ、、、。」 「なかなかに売れっ子だったのよ。」
「売れっ子ねえ。 料亭じゃあ大変だったろうに。」 「お父さんは夜中もずっと出汁の研究をしてたんだって。」
「そりゃまた念の入れようがすごいな。」 「だからかな、私も満足するまで作り直す癖が有るの。」
そう言いながら野菜を切る。 その手付きは料理人だ。
でもたまにその包丁を私に向けてくる。 「脅かすなよ。」
「ごめんごめん。 びっくりした?」 「心臓が止まったよ。」
「でもまだ死んでないわねえ?」 「そりゃ確かにね、、、。」
京子は時々私を脅かしながら料理を作っていく。 やがてテーブルに美味そうな料理が並んだ。