魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

後はのんびりと

 入浴を済ませると、既に日が傾きだしていた。窓から見える太陽は海の向こうに沈み始め、夕焼け色が海に反射していてとても幻想的な風景を見せてくれた。
「綺麗……」
「キャウ……」
 ふかふかに乾いたカールがレティシアの肩に乗り、共に窓の外の景色に目が奪られる。漸く船酔いから解放されたカイラも、その光景は「綺麗ですね」と独り言ちる程だった。

「終わったか?」
 扉をノックしながら訊ねるセシリアスタに「どうぞ」と声を掛ける。静がに扉が開けられられ、セシリアスタも着替えを済ませたようだった。
「レティシア嬢、大丈夫でしたか?」
 エドワースに心配して貰い、レティシアは大丈夫と笑顔を向ける。その笑みで安心したエドワースはそれ以上は何も言わなかった。セシリアスタは不機嫌そうな顔をしながらも、言葉を発した。
「取り敢えずレティシアを海に突き落とした女性は牢に入れて貰った」
「お嬢様を海に!? 許さん……」
「カイラ、落ち着きなさい。もう牢に入っているから何も出来ないわ」
 事情を知らなかったカイラは憤慨し、それをアティカが止める。何時もの光景に、レティシアは小さく笑みを零した。
「全く……お前のその顔はどうにかならないのかよ」
「生まれつきだ、どうにも出来ん」
 呆れながら話すエドワースにセシリアスタも溜息を吐いている。セシリアスタは絶世の美丈夫だ。世の女性が目を奪われるのは仕方ないとしても、セシル様は私のものなのに――。そう、レティシアは強く思ってしまった。これが嫉妬というものなのだろう。
「兎に角、暫くダグラスに着くまで部屋で大人しくするさ」
「それが賢明かと」
 アティカもそれに頷き、カイラとアティカ、エドワースは部屋に戻った。
「食事はこの部屋に運ぶように手配しておこう」
「はい……」
「レティシア?」
 どうした? と首を傾げるセシリアスタに、レティシアは俯きながらセシリアスタに近付き頬を膨らませた。
「……私の、私だけのセシル様なのに……」
 きゅ、とセシリアスタの袖を掴み、不貞腐れるレティシア。そんなレティシアに、セシリアスタは頬が緩んだ。
「嫉妬だけでなく、独占欲まで抱いてくれるとはな……」
「嫌、でしたか?」
「そんなことはない。寧ろ光栄だよ」
 言いながら、セシリアスタはレティシアを抱き締める。ぎゅっと抱き締められるセシリアスタの温もりに、レティシアのもやもやした感情が次第に晴れて行った。
「夕食まで時間があるな」
「そうですね」
 外を見ても、壁に掛かった時計を見てもまだ夕食の時間までは幾分ある。そんなことを思っていたレティシアの膝裏に腕を通すと、ひょいと横抱きに抱え上げた。
「ベッドに行くか」
「ええっ!」
 こんな昼間から!? 恥かしさに頬を真っ赤にしおろおろするレティシアに、セシリアスタは肩を震わせた。
「ただの昼寝だよ。……君は何を想像したんだい?」
「~~~~っ」
 耳元で囁かれ、更に顔が真っ赤に染まる。いやらしい想像をしてしまったなんて、は、恥ずかしいっ――。
「君がお望みならばそうするが、どうする?」
 ベッドに運ばれ、横に寝かされる。レティシアに覆い被さるように乗ってきたセシリアスタの目は真っすぐレティシアだけを見つめていて、レティシアは言葉に詰まる。
「あの、その……えっと……」
「好きなものを選びなさい。私はそれに従おう……」
 そっと顔が近付いてきて、レティシアの唇を奪う。触れるだけのキスの後、レティシアは言葉を紡いだ。
 その言葉に、セシリアスタは深い笑みを浮かべた。
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