魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

ダグラス

 あの後は特にトラブルもなく、順調に船旅を楽しんんだ。室内からは碌に出ることはなかったが、それでも、セシリアスタと会話をしたり持ってきていた本を読んだりと時間を満喫し、遂に、目的の地に辿り着いた。

「わあっ」
 グスタットの倍以上あるダグラスの港街、テトスは活気と熱気に包まれていた。賑やかな声、時折響く怒声、それら全てが港を包み込み、相当な賑わいとなっていた。
「ここは何時もと変らないな」
「そうなんですか?」
「何度か此処に来たことがあるが、変らない賑やかさだよ」
 セシリアスタの言葉に、レティシアは再び港を振り返る。此処までの活気は凄く、レティシアは物凄く観光が楽しみになった。セシリアスタに手を握られながら、港を出るべく歩き出す。新鮮な魚介の積み荷が船から降ろされたり、他国のものと思しき船から輸入してきたであろう積み荷も降ろされていく。少し離れた市場では、新鮮な魚介やダグラスの名産である織物が旅人のお土産にとずらりと並べられていた。その光景だけでも、レティシアを興奮させる。
「セシル、ダグラスの首都まではどうやっていくんんだ?」
 肝心の移動初段を聞いていなかったことを思い出し、エドワースが訊ねる。すると、セシリアスタは淡々と答えた。
「馬車で行こう。幸い、この街には馬車は多い」
「オッケー。手配してくるわ」
「頼んだ」
 人混みをすり抜け、エドワースは馬車の手配をしに行ってしまった。その間、物珍しさにきょろきょろと辺りを見渡してしまうレティシア。そんなレティシアに、セシリアスタは微笑みながら話しかけた。
「何か興味を持ったものはあったか?」
「あ、はい。あそこの織物屋さんにあるストールが少し……」
「そうか。アティカ、カイラ、此処にいてくれ」
 そう言うと、セシリアスタはレティシアを連れて織物屋の方へと歩き出した。
「セ、セシル様っ」
 レティシアの慌てる声を無視し、セシリアスタは店主に話しかける。
「彼女に似合うストールを選んでくれ。値段はい問わない」
「はいよ! そうだね……」
 レティシアを置いて、店主とセシリアスタの間で言葉が交わされていく。店主が何度かレティシアを見ながら、幾つかのストールを見比べる。
「これなんかどうだい? ダグラスの伝統の染め物に魔糸の刺しゅうが施されてるやつさ」
 そう言って取り出したのは、珊瑚色のストールに黄色と緑色の魔糸で海岸に自生する花が刺しゅうされたものだった。セシリアスタは頷き、それを購入した。
「レティシア」
 セシリアスタに視線を向けると、そっと首にかけてくれた。優しい肌触りながらさらりとした通気性に、思わず驚いてしまう。
「うん、似合っているよ」
「あ、ありがとう、ございます……」
 にこやかに笑みを向けられ、レティシアは頬を赤らめながら礼を述べた。
「お兄さん方、此処には旅行に?」
「ああ、新婚旅行だ」
 言いながら、セシリアスタはレティシアを抱き寄せた。店主はにこやかに頷くと、「それなら」と言葉を続けた。
「魔石に特殊な加工を施して魔糸にする工房があるんだ。そこで魔糸を作って貰うといいよ。その魔糸で編んだブレスレットを付けていると夫婦円満になれるって願掛けができるらしいよ」
「願掛けか……行ってみるかい?」
「はいっ」
 願掛けとはいえ、魔石に特殊な加工を施すというのは見てみたい――。レティシアは大きく頷いた。
「まいどあり!」
 お金を払い、カイラとアティカのいる場所まで戻る。すると、既にエドワースが馬車を連れて戻ってきていた。
「よっ。おかえり。どこか寄り道するか?」
「魔石に特殊な加工を施して魔糸を作る工房があるそうだ。そこに向かってくれ」
「はいよ、御者さん、道案内頼むぜ」
 エドワースの言葉を合図に、御者が頷き馬を歩きださせた。どんな工房なのだろう――。レティシアは期待に胸を膨らませていた。

< 30 / 31 >

この作品をシェア

pagetop