魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

例の二人の存在

「セシル、入るぞ」
 眠るレティシアを起こさないよう、そっと部屋に入ってくるエドワース。ここはレティシアの部屋だ。あのまま馬車で戻ってきたが、未だ夢の中にいるレティシアを起こすのは忍びないと、カイラとアティカに頼みナイトドレスに着替えさせ、そのままベッドに寝かせたのだ。
「どうだった?」
「イザークの奴が張り切って調べてくれたから、素性が簡単にわかったぜ」
 そう言いながら、書類を手渡す。確認すると、セシリアスタの表情が険しくなった。
「こいつか……」
 式を挙げる前、オズワルト伯爵邸で開いたパーティーに参加しなかった人物……ユスターク伯爵。その令息ヴィクターと、その妹ビビアナ。厄介な家系に目をつけられたものだと、セシリアスタは溜息を吐いた。
「カーバンクルに関しては自警団使って捜査するってよ。まだ屋敷にいるかもしれねえし」
 そう言いつつ、エドワースはレティシアの枕元を見る。カーバンクルはレティシアから離れることなく、ぐっすりと眠っていた。
「カーバンクルは深い森の奥地に生息する生物だ。恐らく密輸か、密猟だろうな」
「ああ。イザークもそう言ってたぜ。ただ問題なのはそれよりも……」
「ああ……呪術だな」
 ユスターク家は、魔法だけでなく呪術を使える一族だ。呪い(まじない)ともいい、魔法と自身の血や対象者の体の一部を使い、呪術を発動させる。それは人を呪うことも出来れば、殺めることも出来る。
「そんな奴らに目を付けられちまうなんて、レティシア嬢も大変だな……」
「エド、レティシアに届いていた招待状の中にユスターク家からのはあったか?」
 ディアナから聞き、レティシアに来ていた招待状のことを知ったセシリアスタ。頼って欲しかったというのもあったが、自分でどうにかしようとしていたレティシアにセシリアスタは頬を緩めた。
「見事にあったぜ。それもなん十通もだ」
 エドワースから寄越されると、普通の招待状に見える、だが、招待状はどれも二通入っていた。

 あたしの方がセシリアスタに相応しい。お前みたいな不良品はお情けで結婚して貰えただけだ。
 自分の身分を弁えろ。この不良品が。お前はこの世界に不要なんだよ。早くセシリアスタの隣からさっさと退け。
 そしてこの世界から消えろ。役立たずはこの世界に不要なんだよ。

 そう簡潔に書かれた手紙を、セシリアスタは強く握りしめた。怒りに表情が消えている。
「他の令嬢からの手紙にも、似たような手紙が添えられてるやつもあるぜ。見るか?」
 一応確認するエドワースに、セシリアスタは首を横に振った。
「そう怒るなよ。レティシア嬢が起きちまうぜ」
 ハッと我に返り、セシリアスタは深呼吸を繰り返し、自身を落ち着かせた。他の手紙は、既婚者に見合い話を打診することも書かれていた。
「潰すか……」
「おいおいっ、穏便にやらなきゃ、レティシア嬢が悲しむだけだっての!」
 突然言い出したセシリアスタに、エドワースはストップをかける。このままでは本当にやりそうな勢いだ。
「それもそうか……だが、どうやるか……」
 一人考えだしたセシリアスタに、「行きます」と声がかかった。
「レティシア、目が覚めたのか」
「はい……少し前に。私、ユスターク伯爵のサロンに行きます」
 その言葉に、セシリアスタは目を見開いた。
「駄目だ。危険すぎる」
「行かせてください。行って、私がセシル様に相応しいのだと見せてきます」
「だが……」
 危険を承知で行こうとするレティシアに、セシリアスタは良い顔をしない。そんなセシリアスタへ、エドワースは言葉をかけた。
「セシル、レティシア嬢も頑固なのはお前も知ってるだろ」
 そう言われてしまい、セシリアスタが折れた。「ただし」と言葉を続ける。
「行く際はエドを連れていけ。それが条件だ」
「はい。エドワースさん、宜しくお願いします」
 声を掛けると、エドワースはにっと笑顔を向けてくれた。その笑顔に、レティシアは微笑み返す。
「キュウ」
 話が纏まったと同時に、カーバンクルが起き出した。レティシアの頬を舐め、頬擦りしてくる。
「そいつ、本当にレティシア嬢のこと気に入っちまったみたいだな」
「ああ。本来、聖獣は人にそこまで慣れないのだがな」
「そうなんですか?」
 ゆっくりと上体を起こすと、レティシアの膝の上に乗り、じっと見上げてくる。可愛らしいその姿に、自然と顔が綻んだ。
「では明日、招待状の返事を書いておきます」
「無理はしないでくれ」
 心配そうに顔を覗き込むセシリアスタに、レティシアは「はい」と答える。不安はあるが、エドワースさんと一緒だから大丈夫。セシル様に、心配だけはさせたくない――。そう、思ったレティシアだった。
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