魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

レティシア

 ユスターク家から帰ってくると、カイラとアティカ、そしてセシリアスタは目を見開いた。レティシアの髪が、一部とはいえ切られていたのだから。
「ああっ、お嬢様の、お嬢様の髪がああああああああっ」
 大粒の涙を流しながら、カイラは嘆いた。何時も髪の手入れをしてくれているアティカも、残念そうに顔を歪ませた。
「……エド」
「本っ当にすまない! 俺の油断が招いたことだ。処罰は受ける」
 その言葉に、レティシアは首を振った。エドワースが居なかったら、この程度では済まなかったのだから――。
「そんなことないです! エドワースさんが居てくれたから、この程度で済んだんです。セシル様、怒るのでしたら私を叱ってください。私の不注意が招いた結果です」
「レティシア嬢は何も悪くねえ! 俺があの男の方も見てればよかったんだ。くそっ」
 互いを庇い合う二人に、セシリアスタは溜息を吐いた。
「処罰はしない。無事に二人が戻ってくればそれでいい。レティシア、髪以外は大丈夫か?」
 そっと歩み寄り、短くなってしまった髪の一部を手に取る。「大丈夫です」とレティシアは微笑んだ。
「髪にはまだ魔力の移動はさせてませんでしたし、髪はエドワースさんが回収してくださいましたので」
「そうか。後で髪を揃えよう。短い髪の君も素敵だろうな」
「セシル様……」
 エドワースが処罰されなくて、本当に良かった。そう思うレティシアだった。
「髪は可能な限り回収はしたぜ」
「ああ。助かる」
 エドワースの言葉にホッとするセシリアスタに首を傾げていると、カーバンクルが「キュウ」と鳴いた。
「そういえば、カーバンクルの親はどうだった」
 その言葉に、エドワースは顔を歪めた。
「あいつ等、嘘も当然のように使ってきやがったぜ。あの毛はそいつのだったそうだ」
「そうか。少し、灸を添えねばならないな……」
 セシリアスタの表情が冷たいものに変わっていく。この子の親は、一体何処にいるのだろうか――。レティシアは腕の中でこちらを見上げてくるカーバンクルに視線を落とした。
「キュウ」
「不大丈夫よ。暫くはこの家で一緒に居られるわ」
 レティシアの言葉の意味がわかったのか、カーバンクルはレティシアの手を嬉しそうに舐めていた。




 夜、エドワースから受け取った髪を束ね机の引き出しに仕舞ったレティシアの髪は、綺麗に整えられていた。昼間のうちに美容師を呼び、髪を整えて貰ったのだ。
「レティシア、入るぞ」
 ノックの後、二人の部屋を繋ぐ扉が開いた。セシリアスタが近付き、切り揃えられた髪を梳かれた。
「やはり短い髪の君も素敵だな」
「ありがとうございます、セシル様」
 そっと頭を撫でられ、その手の温もりに目を細める。そっと背に腕を回され、膝裏に手をかけられ抱きかかえられた。
「きゃっ、セシル様……?」
「今日は、私の部屋で寝よう」
 その言葉に、レティシアは頬が紅潮した。セシリアスタの部屋で寝るということは、同衾するということだ。
「嫌か?」
「そんな、私はその……」
 ジッと見つめ、言葉を待つセシリアスタ。そんなに熱の籠った熱い視線で真っすぐ見られたら、断ることも出来ない――。それに、ヴィクターに触られたあの嫌悪感もどうにかして欲しい。そう思うと、自然とセシリアスタの首に腕を回していた。
「ぃ、嫌じゃ、ないです……」
 顔を真っ赤に染めながら、セシリアスタの肩口に顔を埋めるレティシア。そんなレティシアの真っ赤に染まった耳にキスをしながら、セシリアスタは自室へと歩を進めた。そして、静かにドアを閉めたのだった。


 そっとベッドに下ろされ、唇を重ねられる。ナイトドレスを脱がされ、セシリアスタも一枚ずつ服を脱いでいく。互いに下着姿となり、そっと体に触れられていく。未だ両手で数え切れる程しか体を重ねていないが、それでも、体を繋げた瞬間の共に重なり合っている状態は、心地よいと心の底から思えた。
 互いに快感を高め合い、絶頂へ導かれる。そうすると、互いの魔力が混ざり合い、更に快感を享受できた。
「セシル、様……っ」
「レティシア……」
 互いに再び快感の絶頂へと誘われていく。この瞬間が、セシリアスタと繋がれているこの時が、何よりも満たされる時間のように思えた。
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