魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

歪みきった者達のやり取り

 目が覚めると、既にあの『不良品』はいなくなっていた。
「くそ……くそ、くそ、くそっ!」
 離婚届は幻惑だった。騙された、騙しやがった、『不良品』の癖に!
だが、髪は一本手に入れた。これだけあれば十分だ。
「これで呪詛用の道具を作ってやる……それであいつを殺せば……あはは!」
 想像し、今から楽しみで仕方ない。そんな事を思っていると、ヴィクターに髪を奪われた。
「あっ! なにするんだよ兄さま!」
「これで私の未来の伴侶を呪おうとしているだろ?」
 言い当てられ、思わず口を噤む。だが、離婚届が幻惑だった以上、殺す以外に別れさせる方法はない。
「ねえいいでしょ? 一思いにやるからさ。ね?」
 可愛らしく言ってみるが、首を縦には降らないヴィクターに、ビビアナは舌打ちした。
「じゃあ、その髪どうするのさ」
「彼女を手に入れる為に使うさ」
 そう言って嗤うヴィクターの笑みは、不気味なものだった。ビビアナは「うげえ……」と言い兄から一歩離れる。
「ディオス、居るか?」
「はい。ここに」
 背後から現れた従者に、ヴィクターは人形を用意するように命じる。
「宜しいので? 旦那様に知られれば面倒なことになりますが……」
「構わないさ。父は僕たちに甘いからね」
そう言い、ヴィクターは自室に戻る。ビビアナは他に髪が落ちてないか、庭を探しに行ったのだった。
「絶対、あいつは許さない……セシリアスタをあたしから奪っただけじゃなく、当たり前のように隣に居ることが許せない……絶対に呪う、呪ってやる……」

 しかし、髪は見つからなかった。

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