A Maze of Love 〜縺れた愛〜
 受験生の凪咲は、最寄り駅から2駅離れた町の塾に通っており、帰宅は毎日遅かった。
 
 9月のある日。まぶしいほど明るい月を窓から眺めているうちに、大翔は塾帰りの凪咲を駅まで迎えに行こうと思いついた。

 改札口で待っていると、大翔を見つけて、凪咲は驚いた顔をしたけれど、ちょっと嬉しそうに手を振った。
 そして、小走りに駆け寄ってきた。

「迎えに来てくれたんだ」
「アイス、食いたくなって」

 大翔はコンビニの袋を掲げて見せた。

 ふたりは駅前のベンチに腰を下ろして、アイスを食べた。

「もう。こんな時間に食べたら太っちゃうじゃない」
 文句をいいながらも、凪咲は顔をほころばせてアイスをスプーンですくっては桜色の唇に運んでいく。

「ごちそうさま。おいしかった。塾で頭いっぱい使った後だったから、糖分が脳に染みたよ」

 凪咲の口の端にすこしだけアイスがついていた。

――キスしちゃった、という友達の声が頭をかすめる。

 大翔は親指を伸ばして、アイスをぬぐい、そのまま、自分の口に持っていって、少しベタついている指先を舐めた。
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