極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる

プロローグ

 その女性がガラス窓の向こうを通ったとき、思わず目を惹かれたのは、艶やかな黒髪のロングヘアをしていたからだろうか。
 三月中旬のロンドンの曇り空の下、ゆったりした白のニットにスモーキーグリーンのロングスカートというシンプルな装いで、小ぶりのバッグを斜めがけにして、左手に大きな紙袋を提げている。
 見るとはなしに見ていたら、女性は彼のいるカフェに入ってきた。
 二十代後半くらい。理知的な二重の目をしていて、日本人のようにも見える。けれど、旅行者にありがちなどこか不慣れな雰囲気や仕草はなく、カウンターで注文する姿は自然で、店員とも流暢なイギリス英語でやりとりしている。
(日系人かな)
 そんなことを思いながら、視線を目の前のノートパソコンに戻した。意識を仕事に向けて、次のプロジェクト案に頭を悩ませる。
 以前からずっと温めていた事業を、どうにかこの三月中に取引先に提案できる形にしたい。
(やはり少しインパクトが足りないか)
 さっき入力した文章を打ち直そうとしたとき、すぐ右隣で「あっ」という声とともに、紙が破れる大きな音がした。
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