極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
 顔を向けたら、隣の席に座ろうとしていたらしい先ほどの女性が、恥ずかしそうに顔を赤くしている。左手に提げていた紙袋が大きく破れていて、十数冊はあろうかという英語のペーパーバックが店の床に散らばっていた。
 女性はしゃがんで本を拾い始める。
 彼はとっさに手伝おうと腰を浮かしかけて、ハッと思いとどまった。
 大学時代からの友人に言わせれば、彼の笑顔は『破壊力が半端ない』のだそうだ。
 確かに、これまで仕事関係で知り合った女性ににこやかに接したせいで、あらぬ誤解を招いて大変な目に遭ったことが何度もある。
 プレゼントを送りつけられたり、彼と付き合っていると嘘の噂を広められたり……。
 あるクライアント企業の営業担当の女性など、社長である父親に頼んで、『娘との付き合いを考えてくれたら、新しいプロジェクトに出資しよう』と持ちかけさせた。丁重にお断りしたところ、クライアントを一社失うことになったのだ。
 けれど……。
(困っている人を放ってはおけない)
 そもそも彼女はただ同じカフェで席が隣り合っただけ、偶然出会っただけの女性なのだ。彼がどういう肩書きの人間でどんな事業を行っているのか、知っているはずもない。
 自分の自意識過剰さに内心苦笑しつつも、念のため無表情を装う。
 女性の隣に片膝をついて、淡々とした口調の英語で声をかけた。
『お手伝いします』 
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