極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
『ああ、そうなのね。そう言えば、二葉は日本語に訳されていない本を探しにロンドンに来てるって言ってたわね』
『はい』
『それにしても、かわいらしいバッグねぇ』
 フローラは一歩下がってエコバッグのロゴを眺めた。
 二葉はほんの数時間前の出来事を説明する。
『本を読もうとカフェに行ったときに、アームレストに引っかかって紙袋が破れてしまったんです』
 そのときに、一見クールだけど紳士のように礼儀正しく親切な男性が助けてくれたのだと話すと、フローラはいたずらっぽい表情でウインクをした。
『そういうことがスマートにできる人は、〝紳士のような男性〟ではなく、本物の〝紳士〟なのよ』
『あっ、そうですよね。本当にステキな人でした』
 恋愛小説ふうに言うなら、〝クールなイケメン紳士〟といったところだろう。
 そんなことを思う二葉に、フローラが訊く。
『また会うの?』
 二葉は驚いてぱちくりと瞬きをした。
『え? いえ。私が本を読んでいる間に帰ったみたいで、名前も知りません』
『あらぁ、そうなのね~。残念。ロマンチックな出会いだと思ったのに』
 フローラは言葉通り残念そうにため息をついた。数年前に年上の夫を亡くして以来、寂しさを紛らせるために旅行者に部屋を貸しつつ、ロマンス小説を愛読しているだけのことはある。
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