極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
 それを聞いた瞬間、二葉の肩から力が抜けた。
 電話の相手が出版社の担当者でないことは明らかだった。栗本洋一郎とは、滋賀県に住んでいる二葉の父方の祖父の名前だからだ。
 けれど、そもそも祖父はとても頑固な人で、二葉たち一家とは仲がよくなかった。よくないどころか、最悪だった。
 学者だった祖父は、高校の教師だった一人息子――二葉の父――を親友の大学理事長の娘と結婚させたかったらしいのだ。そのための根回しもしていたという。けれど父は、骨折した生徒に付き添って病院に行ったとき、看護師をしていた母と出会って恋に落ちた。父は祖父の反対を押し切って母と結婚し、そのことに祖父はずっと腹を立てていたのである。
 父が母と一緒に事故に巻き込まれて亡くなったとき、二葉は祖父母に連絡を取った。祖父母は葬儀に来てくれたが、祖父は二葉には見向きもせず、棺の中の父に向かって『この親不孝者が! わしの言うことを聞かずにこんな女と結婚するから、こんな目に遭ったのだ!』と言った。
 祖母の方はただただ泣いていただけだった。けれど、ほとんど会ったこともなかったうえに、葬儀でそんなことを言った祖父と、二葉はもう会いたいとは思わなかった。
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