幸せでいるための秘密
ふわ、とはためくカーテンの向こうから、何か黒いものが滑り込んでくる。焦点の合わない瞳で何気なくそれを追いかけた私は、両目のピントが合った瞬間テーブルを蹴って立ち上がった。
「うわ、わ、きゃあ――――!!」
「中原!?」
その瞬間、バンと勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んできた波留くんは、よろける私の身体を抱き留め素早く辺りを見回した。私は真っ青な顔でわたわたと波留くんにしがみつく。
「うぁっ、は、波留く、あの、」
「どうした、中原。何があった?」
「が、が! あれ、ほら、黒い……が!」
「が?」
私の指が示す方へ、波留くんはゆっくり視線を向ける。
真っ白なレースのカーテンの中で、穴が開いたように真っ黒い場所。
「蛾……か」
ひとり納得したようにうなずき、波留くんは私を部屋の隅へ追いやるとカーテンの方へと足を進めた。こぶしひとつほど開いていた網戸を全開にして、外へ向かってカーテンをゆらゆら揺する。
ゆったりと羽を休めていた蛾は、波留くんに導かれるように素直に窓から飛び立っていった。
「行ったな」
「ありがとう……」
「カーテン洗うか? 除菌スプレーもあるが」
「除菌スプレー貸してください……」
すっかり腰が抜けてしまった私を見て少し笑うと、波留くんはリビングから除菌スプレーを持ってきてカーテンのあちこちに吹きかけてくれた。
それだけで心が少し落ち着いて、同時に恥ずかしさがこみ上げてくる。私いま、どさくさに紛れて波留くんに抱き着いていたよね? ああ、またやってしまった……。
「小学生の頃に、課外授業で行った自然の家で」
除菌スプレーを軽く振りながら、波留くんは憎々しいくらい平然と言う。
「手のひらほどの巨大な蛾に追い回されて以来、苦手だと言っていたな」
「そうだけど、……私、波留くんにそんなこと話したっけ?」
「ああ。大学生の頃、初めて二人でどこかへ出かけようと誘ったとき『どこでもいいけど虫がいるところは苦手なんだ』と」
そう言うと波留くんは懐かしそうに、それでいて少しからかうように、私を見つめてくすりと笑った。
「あの時は、どんな場所なら中原に良い印象を持ってもらえるか必死になって考えていたから、今でもよく覚えてるよ」
「うわ、わ、きゃあ――――!!」
「中原!?」
その瞬間、バンと勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んできた波留くんは、よろける私の身体を抱き留め素早く辺りを見回した。私は真っ青な顔でわたわたと波留くんにしがみつく。
「うぁっ、は、波留く、あの、」
「どうした、中原。何があった?」
「が、が! あれ、ほら、黒い……が!」
「が?」
私の指が示す方へ、波留くんはゆっくり視線を向ける。
真っ白なレースのカーテンの中で、穴が開いたように真っ黒い場所。
「蛾……か」
ひとり納得したようにうなずき、波留くんは私を部屋の隅へ追いやるとカーテンの方へと足を進めた。こぶしひとつほど開いていた網戸を全開にして、外へ向かってカーテンをゆらゆら揺する。
ゆったりと羽を休めていた蛾は、波留くんに導かれるように素直に窓から飛び立っていった。
「行ったな」
「ありがとう……」
「カーテン洗うか? 除菌スプレーもあるが」
「除菌スプレー貸してください……」
すっかり腰が抜けてしまった私を見て少し笑うと、波留くんはリビングから除菌スプレーを持ってきてカーテンのあちこちに吹きかけてくれた。
それだけで心が少し落ち着いて、同時に恥ずかしさがこみ上げてくる。私いま、どさくさに紛れて波留くんに抱き着いていたよね? ああ、またやってしまった……。
「小学生の頃に、課外授業で行った自然の家で」
除菌スプレーを軽く振りながら、波留くんは憎々しいくらい平然と言う。
「手のひらほどの巨大な蛾に追い回されて以来、苦手だと言っていたな」
「そうだけど、……私、波留くんにそんなこと話したっけ?」
「ああ。大学生の頃、初めて二人でどこかへ出かけようと誘ったとき『どこでもいいけど虫がいるところは苦手なんだ』と」
そう言うと波留くんは懐かしそうに、それでいて少しからかうように、私を見つめてくすりと笑った。
「あの時は、どんな場所なら中原に良い印象を持ってもらえるか必死になって考えていたから、今でもよく覚えてるよ」