幸せでいるための秘密
「冗談じゃないよ、本当にそう思った。昔は元気な女の子って感じだったけど、しっとりした大人の女性になったんだね」

「何言ってるんだか。椎名くんは今シンガポールに住んでるんだっけ? 外国ではそういう話を普通にしているの?」

「まあ、全くしないわけじゃない。でもそれだけが理由だと思われては困るな」

「見た目はあんまり変わらないのに、中身ばっかり外国人みたい。モテたんじゃない?」

「中原こそ。確か今は里野と付き合っていて、同棲もしているんだよね」

 にこやかな椎名くんの言葉が、見えないところで罪悪感を刺激した。

「そうだけど……なんで知ってるの?」

「後輩に聞いたよ。就職してから里野と付き合い始めて、そのまま同棲始めたって。長続きしているんだね」

 横目で伺った波留くんの顔が思った以上に冷めた色をたたえていてぞわりとする。

 今の恋人――同じ弓道部の里野彰良(あきら)と付き合い始めたのは大学を卒業してすぐのこと。そこから今日に至るまで、だらだらと付き合いを続けている。

 波留くんもたぶん、噂くらいは聞いたことがあるはずだ。彼もまた、私と別れて以来ずっと一人でいたわけではないのだから、私ばかりが責められることはない……と思うのだけど。

「確かに住むなら二人のほうが、お金も節約できるしね」

 ワインが気に入ったのかな、椎名くんはぐいぐいとグラスを空けていく。

 波留くんもしつこくグラスに口を付けているけど、ほとんど減っている様子はない。どうやら本当に唇をあてているだけみたいだ。

「でもそれじゃ、一緒に遊ぶのは難しそうだね。残念だったね波留、泣きたいなら胸貸すよ」

「そうだな、じゃあ泣かせてもらおうか」

「もう、そんなこと言って」

 新郎新婦が腕を組んで近づいてくる。ようやくこのテーブルにも順番が回ってきたらしい。

 新婦の美しいドレスを大袈裟に褒めながら、私はカメラを片手に立ち上がった。ドレスが綺麗なのも、一緒に写真を撮りたいのも本当だったけど、そんなことより早く波留くんの側を離れたいという思いが、何よりも強く私を突き動かしていた。
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