幸せでいるための秘密
和気藹々とした披露宴を終え、招待客たちはまばらに解散していく。
タクシーで帰るというお金持ち達を見送り、いざバス停まで歩こうとしたとき、聞き慣れた声が背中から私を呼び止めた。
嫌な予感がしつつも振り返れば、そこには当然のような顔で波留くんが立っている。微塵も色を変えない頬、影を作るほど長い下睫毛。微笑む程度にゆるんだ口元がなんだか艶めかしい。
「帰るのか」
「うん」
「少し話していかないか」
せっかく久しぶりに会ったんだ、と波留くんの示す先では、椎名くんや他の友達が昔と少しも変わらない顔で談笑している。
「悪いけど、あんまり遅く帰るわけにいかないんだ」
頭に浮かぶ恋人の背中。
私の曖昧な笑顔の理由を、波留くんは必要以上に察してくれたようだった。
軽くうつむく。そうか残念だ、と告げる声の低さに、少しだけ胸が痛くなる。
「またの機会に、是非。皆とランチしたいって思ってたし」
「そうだな、良い店を探しておこう」
「うん、私もいろいろ見ておくよ。……それじゃ、今日はこれで」
きびすを返すより先に腕を掴まれる。
唖然とする間もなく引き寄せられ、気づけば耳元に波留くんの唇があった。
吐息が熱い。
「……悪い。なんでもないんだ」
ぱ、と手を離されたとき、腰を抜かさず踏みとどまった自分を褒めてやりたい。
遅れてやってきた羞恥に真っ赤になる私を見て、波留くんはもう一度詫びを述べてから去っていく。私の様子に気づいた椎名くんが目を細めていたけれど、私は気づかないふりをしてそそくさとその場から立ち去った。