幸せでいるための秘密
脱ぎ散らかされた靴をまたいで部屋に入る。
つけっぱなしのテレビから耳障りな笑い声が聞こえてくる。シャワーの音が止むと、それはいっそう大きく頭の中で反響した。こめかみが痛む。
「あ、いたんだ」
首にタオルをひっかけた彼――彰良が、髪の水滴を拭いながらやってくる。全裸のままソファに座ろうとした彼に下着を投げつけ、何か言ってやろうと思ったけど言葉が出てこない。
「いい結婚式だったよ」
結局当たり障りのない言葉でお茶を濁そうとしたけど、返ってきたのは「そう」という一言だけだった。
「もっと何かないの?」
「何かって?」
「部活で一緒だったんだから」
「さあ、幽霊部員みたいなもんだったしなぁ」
「みんな来てたよ。あんまり変わらなかった」
「そう」
気分を変えたくてパーティドレスを脱ぎ捨てる。半ばまでチャックを開けてからカーテンを閉め、その場でパジャマに着替えた。
付き合い四年、同棲一年。
恥じらいがないのはお互い様だ。
「お前さ、その鼻歌」
テレビのリモコンをいじりながら彰良が言う。
「古いし音外れてるし、うざい」
「どーもすみません」
この部屋に転がり込んだ当時、同棲という言葉には夢があった。好きな人といつも一緒にいられると思えば、不安なんて何もなかった。
だが実際はどうだろう。心が躍ったのはほんの最初の頃だけで、半年もする頃には間近に見る彼の寝顔にときめくこともなく、風呂上がりに裸で出てきても恥じらいどころか怒りすら沸かなくなってしまった。一緒に出かけることだってほとんどないし、エッチだってもう何ヶ月もしていない。
一足飛びで夫婦になってしまったのだとしたら、夫婦というのはこんなにも冷たいものなのだろうか。
真っ白なチャペルでキスをしていたあの二人は、心から幸せそうに微笑みあっていたというのに……。
「俺、先寝るわ」
ひとつしかないベッドで向けられた背中。向かい合って眠らなくなったのはいつからだろう。
これみよがしについたため息は、自分を情けない気持ちにさせるだけだった。