幸せでいるための秘密
急に背後から腕を掴まれたかと思うと、乱暴な力で思い切り引き寄せられた。
「あっ……彰良!?」
「お前、うちの署に言っただろ」
ぎりぎりと腕を締め上げられて、奥歯から苦痛の声が漏れる。掴まれた手を振りほどきたいのに、痛みのあまり腕にも足にもうまく力が入らない。
「やめろよ、そういうの。困るんだけど」
「困ってるのは……私の方だからっ……」
「どうせお前が何言ったって誰も信じないし、そうやって俺の評判下げようとするのマジでやめて?」
痛みを介して彰良の怒りが伝わってくる。ふざけるな馬鹿、と怒鳴りつけてやりたい気持ちがお腹の中で滾っているのに、明らかに力で叶わない事実が恐怖となって私を止める。ここで挑発なんてしたら、もっとひどいことをされるかも。
「ちょっとこっち来いよ」
ぐいと路地裏に引き込まれそうになり、とっさに電柱を片手で掴む。でも結局は焼け石に水。私はか細い悲鳴とともに、そのまま物陰へ連れ込まれそうになった時だった。
ふいに視界の端で光がほとばしったと思うと、間近でドゴッと鈍い音が響いた。掴まれていた腕の痛みがほどけるように消えていく。彰良の身体がうつ伏せのままアスファルトに叩きつけられ、ぎゃあっと悲鳴じみた声が上がった。
唖然とする私の手首が強い力で掴まれる。反射で振りほどこうとした私に顔を近づけ、彼は――私が窮地の時に絶対に駆けつけてくれる彼は、息を切らして短く言った。
「逃げるぞ」
「……波留くん……!」
背中を丸めたままの彰良が、肩を震わせて立ち上がろうとする。
波留くんは私の鞄を持ち上げると、私の手を強く引いたまま全速力で走り出した。私は波留くんに引っ張られるまま、ほとんど足をもつれさせながらやっとのことで駆けてゆく。
そのとき突然、私の胸で淡い稲光が明滅した。遠い昔の風景が洪水のように流れ込んでくる。握った手のひら。走る私。記憶の奔流に溺れる中で、山百合の甘い香りが鼻腔をくすぐり、消えていく。
遠くで彰良の声が聞こえた。何か叫んでいるようだったけど、風の音と握った手の温もりが、すべてをかき消してくれた。
「あっ……彰良!?」
「お前、うちの署に言っただろ」
ぎりぎりと腕を締め上げられて、奥歯から苦痛の声が漏れる。掴まれた手を振りほどきたいのに、痛みのあまり腕にも足にもうまく力が入らない。
「やめろよ、そういうの。困るんだけど」
「困ってるのは……私の方だからっ……」
「どうせお前が何言ったって誰も信じないし、そうやって俺の評判下げようとするのマジでやめて?」
痛みを介して彰良の怒りが伝わってくる。ふざけるな馬鹿、と怒鳴りつけてやりたい気持ちがお腹の中で滾っているのに、明らかに力で叶わない事実が恐怖となって私を止める。ここで挑発なんてしたら、もっとひどいことをされるかも。
「ちょっとこっち来いよ」
ぐいと路地裏に引き込まれそうになり、とっさに電柱を片手で掴む。でも結局は焼け石に水。私はか細い悲鳴とともに、そのまま物陰へ連れ込まれそうになった時だった。
ふいに視界の端で光がほとばしったと思うと、間近でドゴッと鈍い音が響いた。掴まれていた腕の痛みがほどけるように消えていく。彰良の身体がうつ伏せのままアスファルトに叩きつけられ、ぎゃあっと悲鳴じみた声が上がった。
唖然とする私の手首が強い力で掴まれる。反射で振りほどこうとした私に顔を近づけ、彼は――私が窮地の時に絶対に駆けつけてくれる彼は、息を切らして短く言った。
「逃げるぞ」
「……波留くん……!」
背中を丸めたままの彰良が、肩を震わせて立ち上がろうとする。
波留くんは私の鞄を持ち上げると、私の手を強く引いたまま全速力で走り出した。私は波留くんに引っ張られるまま、ほとんど足をもつれさせながらやっとのことで駆けてゆく。
そのとき突然、私の胸で淡い稲光が明滅した。遠い昔の風景が洪水のように流れ込んでくる。握った手のひら。走る私。記憶の奔流に溺れる中で、山百合の甘い香りが鼻腔をくすぐり、消えていく。
遠くで彰良の声が聞こえた。何か叫んでいるようだったけど、風の音と握った手の温もりが、すべてをかき消してくれた。