幸せでいるための秘密
「……そうか。警察はだめだったか」
電車の座席に並んで座り、ぽつりぽつりと話をした。警察官との電話の内容。いきなりやってきた彰良のこと。波留くんは眉間にしわを寄せ、睨みつけるほど真剣な目つきで私の話を聞いてくれた。
「彰良はもう、言葉で説明してどうにかなるような状況じゃないと思う。今だって、波留くんが来てくれなかったら何をされていたかわからないし……」
彰良の態度はどう考えても、復縁を求める相手へのものではなかった。暴力と恐怖で相手を屈服させ、思い通りに従わせようとする、言ってしまえば躾のようなものだったと思う。
引きずり込まれる恐怖を思い出し身震いする私の隣で、波留くんはスマホの画面をしきりに親指で動かしている。それから、ほんの小さく舌打ち。……こんなに苛立っている波留くん、ちょっと珍しい。
「あいつを殴る直前にスマホで写真を撮ったんだが、周りが暗くて顔までは上手く写せなかった。これを提出したところで、警察の態度は変わらないだろうな」
「うん、そうだね……。でも波留くん、よく私がここにいるってわかったね?」
波留くんはほとんど上の空のようで、私の問いかけにも「ああ」とおざなりな返事をしただけだった。
仕方なく私は背もたれに寄りかかり、今しがたの走馬灯の記憶を呼び起こす。いままでずっと忘れていた、なんだかとても懐かしい思い出が蘇りかけたような気がする。
でも、意識して思い出そうとしても結局何も浮かんでこなくて、目に映るのは電車の広告と案内表示のディスプレイくらい。あの甘い花の香りだって、私は山百合を連想したけど、本当は近所のお庭に咲いている別の花の匂いだったかもしれない。
「中原」
指先をくすぐる感触で我に返る。
絡んだままの指先を無意識に弄びながら、波留くんはいつになく真剣に言った。
「里野のことは、俺が全部なんとかする。少し時間はかかるかもしれないが、すべて俺に任せてほしい」
「う、うん」
でも、頼みの綱だった警察にも門前払いされたのに、この上さらにできることがあるのだろうか。
心の中に疑問を浮かべる私から目を逸らし、波留くんは独り言のように付け足した。
「《《今度はもう》》、危ない目に遭わせたりしないから」
電車の座席に並んで座り、ぽつりぽつりと話をした。警察官との電話の内容。いきなりやってきた彰良のこと。波留くんは眉間にしわを寄せ、睨みつけるほど真剣な目つきで私の話を聞いてくれた。
「彰良はもう、言葉で説明してどうにかなるような状況じゃないと思う。今だって、波留くんが来てくれなかったら何をされていたかわからないし……」
彰良の態度はどう考えても、復縁を求める相手へのものではなかった。暴力と恐怖で相手を屈服させ、思い通りに従わせようとする、言ってしまえば躾のようなものだったと思う。
引きずり込まれる恐怖を思い出し身震いする私の隣で、波留くんはスマホの画面をしきりに親指で動かしている。それから、ほんの小さく舌打ち。……こんなに苛立っている波留くん、ちょっと珍しい。
「あいつを殴る直前にスマホで写真を撮ったんだが、周りが暗くて顔までは上手く写せなかった。これを提出したところで、警察の態度は変わらないだろうな」
「うん、そうだね……。でも波留くん、よく私がここにいるってわかったね?」
波留くんはほとんど上の空のようで、私の問いかけにも「ああ」とおざなりな返事をしただけだった。
仕方なく私は背もたれに寄りかかり、今しがたの走馬灯の記憶を呼び起こす。いままでずっと忘れていた、なんだかとても懐かしい思い出が蘇りかけたような気がする。
でも、意識して思い出そうとしても結局何も浮かんでこなくて、目に映るのは電車の広告と案内表示のディスプレイくらい。あの甘い花の香りだって、私は山百合を連想したけど、本当は近所のお庭に咲いている別の花の匂いだったかもしれない。
「中原」
指先をくすぐる感触で我に返る。
絡んだままの指先を無意識に弄びながら、波留くんはいつになく真剣に言った。
「里野のことは、俺が全部なんとかする。少し時間はかかるかもしれないが、すべて俺に任せてほしい」
「う、うん」
でも、頼みの綱だった警察にも門前払いされたのに、この上さらにできることがあるのだろうか。
心の中に疑問を浮かべる私から目を逸らし、波留くんは独り言のように付け足した。
「《《今度はもう》》、危ない目に遭わせたりしないから」