婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける

第9話

 夜、たどり着いたのは王城だった。
 警備も手薄となり、簡単に忍び込む事ができた。
 何処へ向かえばいいのか? それは頭に響く声が教えてくれる。
 私が行かなくてはならない場所、そこへ行けと指示してくれる。
 だから、迷うこと無く歩く事ができる。

「……ここは?」

 着いた場所は、ある一室の前。そこは部屋と言うよりは広場の扉。
 ダンスパーティーなどで使われる、そういう場所だ。
 胸騒ぎが心臓を締め付ける、頭の痛みが強まる。
 この先だ、この先に不安の原因がある。
 私は、勢いよくの扉を開いた。

「……ッ!」

 始めに目に付いたのは、鮮血。フロア全体に広がる赤い染み。
 そして、人の形をした物体。それは決して人形ではなく、人間の死の証だ。
 その肉の塊の中央に、わずかに息をしている男性の名前は……。

「ウイル様っ、どうして?」

 駆け寄った。既にその端正なお顔の赤みが消えかかり、生気が失われていくのが分かる。
 私には、何もできない。
 傷口を押さえても溢れ出る血を止める事は出来ないし、もはや治療には意味も無い事など、医学に於いて浅学すら遠い私の知識にも、理解を訴えられる。
 死神が虎視眈々と狙う。そういう状態なのだ。
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