婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける

第10話

 窓から月の光が妖しく照らしてくれる。
 廊下を歩む私の影から、一つ、また一つと、黒いモノが溢れ出す。
 それは人。それは獣。
 この世に存在する生物の形をしていながら、何にも似る事が出来ない黒いだけの物体。それらが、群れとなり私の後ろへ現れる。

「お行きなさい。愚かな者を、哀しき者を、その身で包んで上げなさい」

 彼らは一斉に飛び出していった。
 私の影の中から現れた異形の軍勢は、闇夜に紛れて城を蹂躙(じゅうりん)していく。
 歯向かう者には永遠の眠りを、怯える者にはただ一晩の悪夢を。
 悲鳴が聞こえることはない。一瞬の出来事に反応は有り得ないのだから。


 歩みを進めるうちに、私はある部屋の前にたどり着いた。
 入り口からして豪華絢爛(ごうかけんらん)で在らせられる、ある御方の御座す部屋。
 私は失礼の無いように、開け放つ。静かに、音を立ててながら。

 部屋の中にいたその御方、次期国王へと至る資格を持つ……。
 いや、持っていたはずの御方。
 既に、そのお体を影に浸食され、顔のみがこの世に露わされるばかりの御方。
< 25 / 34 >

この作品をシェア

pagetop