初恋カレイドスコープ
……不安になる嫌な笑顔だ。温和なのに冷徹で、人の醜聞を愉しんでいるように見える。
颯太くんのほうは平然としたもので「嫌な奴ですね」なんて素直に憤っている。彼の場合は私のせいで社長代理に変な反感を持っているから、そのせいかもしれないけれど。
「……そのお話、どこで聞かれたんです?」
私が静かに訊ねると、
「知りたいかい?」
と言って、青木副社長は口角を上げた。
そのとき、副社長と颯太くんが揃ってぱっと顔を上げた。遅れて振り返った私は、秘書もつけずに一人で歩く社長代理の姿に息を呑む。
社長代理はいつもの仕事中らしい冷めた瞳に、いくばくかの炎をたぎらせてこちらをじっと見据えている。その足先は寸分たがわず私たちの方へと向けられていて――足の竦んだ私の前へ、立ちふさがるように颯太くんが進む。
「楽しそうな話だな」
社長代理は薄く笑って、男性二人の顔を見ながら言った。
「カートランド社のファッション誌に俺の顔が載った時点で、いずれ誰かが昔の写真を面白半分に流す予想はしていた。事実無根の告発については相応の対応を進めている」
「…………」
「俺への個人攻撃について、社員が心配することは何もない。俺は誹謗中傷には屈しないし、そもそもこんな侮辱程度で落ち込むほど弱くもない。なにせ、慣れているからね」
視線が横へスライドして、青木副社長の険しい顔を捉える。
「で? 話の出所について、教えてくれるんじゃなかったの?」
青木副社長は眼鏡の奥の瞳に静かな敵意を滾らせていたけど、それを誤魔化すようにふぅと細く吐息を吐いた。
「……プライベートな話ですから。控えさせていただきます」
「そう? 遠慮しなくていいのに」
「……ふふ。そうですか。では、お言葉に甘えて、ひとつお訊ねしてもよろしいでしょうか」
眉を上げた社長代理に、青木副社長は笑みを深める。
「社長代理は水が苦手で、泳げないというのは本当ですか?」
社長代理の猫の瞳に、一瞬だけ動揺が映る。
まるで勝利を確信したみたく、青木副社長がニィと笑った。そのとき、
「すみません、青木副社長。お客様から至急のお電話です」
青木副社長担当の秘書が、慌てた様子で駆けてくる。副社長はすぐさま仕事中の顔へ戻ると「すぐに行く」と告げて、私たちに背を向け歩き出した。
颯太くんは私を背中に庇ったまま、威嚇するように目を怒らせて社長代理を睨んでいる。社長代理は青木副社長の背中を、感情の読めない鋭い瞳でただ静かに見つめている。
「……すみません、社長代理」
震える声で呟く私に、社長代理は笑いもしないまま、
「高階は何も悪くないよ」
と、短く言って背を向けた。