ハイドアンドシーク
今まで自分が信じてきたものが──信じようとしてきたものが、足元から崩れ落ちるような感覚。
自分の常識が覆される恐怖、
必死に封じていた劣等感がわたしを襲った。
「オメガだけだよ。番うまでは抑制剤に、番ってからはアルファに頼らないと息なんてできないでしょ。誰かの庇護下でぬくぬく暮らせばいいよ、一生」
悪意に満ちた言葉が、刺された傷口からじわりと染み込んでくる。
なにも言えないわたしにどんな表情をしているかなんて、顔を見なくてもわかった。
「どうやら僕たちは相性が悪いみたいだね。君にわざわざ手を出すほどのフェロモンを感じない」
身体共鳴──アルファとオメガがお互いのフェロモンを感じ取り、本能的に相手を欲する衝動。
それが全くないことはわたしも気になってはいた。
これだけ近くにいるのに、あてられるどころかちっとも魅力を感じないなんて滅多にないことだから。