ハイドアンドシーク
一度からだが覚えてしまえば忘れることのない、匂いが。
いつだってわたしを安心させて、求めさせて、おかしくさせるんだ。
ぎゅっと目をつぶる。
考えないように。
これ以上、くるしくならないように。
「鹿嶋」
低く落ち着いた声が、隙間なく触れた胸から直接耳の奥に響いた。
────誰かと番え、って。
それになんて返したかは覚えていない。
ただ、次の日の朝。
洗面所の鏡に映る首筋に、ぽつんと残った赤い痕をみつけたとき。
あれは夢じゃなかったのだと気づくと同時。
やっぱり、どうしようもなく、胸が苦しくなった。