婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 せいぜい二、三人くらいだろうと思っていたのに、エーリヒの周辺には十人くらいの男達が転がっていた。
 いくら何でも、ひとり相手にひどすぎる。
 そう憤って彼の元に駆け寄ると、腕を引いて抱き寄せられた。
「へ?」
 いきなりの抱擁に、我ながら間抜けな声が出てしまう。
「他にクロエに手を出したい奴はいるか? 何人でも相手になるぞ」
 威圧するような低い声。
 今まで見たこともない冷酷な視線に、息を呑む。
(エーリヒ?)
 クロエの前では見せたことのない顔だ。騎士団に所属していた頃、彼が氷の騎士と呼ばれていたことを思い出す。
 思わず彼の腕に手を添えると、エーリヒは途端に、にこりと笑った。
「ごめん、待たせたね。何か良い依頼はあった?」
「……う、うん。魔石の依頼とか」
「いいね。登録したら受けてみようか」
 エーリヒは周囲の惨事などまったく顧みず、クロエの手を取ったままギルドの受付に向かう。
 受付には、中年の男性がいた。
 床に転がる男達を見ても、驚いた様子も見せないところから考えると、ここではよくあることなのか。
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