婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 だが他人から見れば凄惨な過去を、まるで大切な思い出のように話す様子から考えると、それ以上の想いが込められているのは明白だった。
 エーリヒはクロエだからこそ逃亡の旅に同行し、世間知らずなクロエが騙されないように、つらい目に合わないようにと守ってくれたのだ。
 昔、助けてもらったというメルティガル侯爵令嬢のクロエのために。
 もしかしたら、好意を持ってくれているのかもしれない。
 あれほど女性を嫌悪しているエーリヒが、クロエにだけは、自然に笑顔を見せてくれる。
 ふざけるように、そしてこれは演技だと言いながらクロエを抱きしめる腕が、いつだって拒絶を恐れて緊張していることに気が付いていた。
 クロエだって相手がエーリヒでなければ、同じ家に住むことはもちろん、一緒に旅をすることだって考えられなかっただろう。
 まして、同じベッドで寝たりしない。
(でも……)
 好意を持っている相手が同じ気持ちであるとわかっても、素直に喜べない。
 エーリヒがクロエに好意を持って大切にしてくれるのは、見習い騎士だった頃の彼を助けたからだ。
 だが、その記憶が今のクロエにはなかった。
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