婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 そっとエーリヒを見上げると、彼はよほど心配したのか、厳しい顔でクロエを見下ろしている。
「だってエーリヒがいなかったから」
 掠れた声でそう言うと、頬に触れていた彼の手がぴくりと動いた。
 目が覚めたときにひとりで、寂しかった。
 抱きしめてくれた温もりが恋しくなった。
 いつもは少し強引に抱きしめるくせに、どうして一度拒絶したくらいで、距離を置こうとするのか。
 自分が原因だとわかっているのに、そんなことを思ってしまう。
「傍にいてくれなかったから、寒くて目が覚めたの」
 身体が弱っているからか、深く考えることなく本音をそのまま口にしていた。
(ああ、これはクロエの気持ちだわ)
 愛情に飢えていた寂しがりの令嬢が、抱きしめてくれる腕を、温もりを求めている。
 深く考えずとも、自分の中にちゃんとクロエはいたのだ。
「いつもエーリヒが傍にいてくれたから、温かくてよく眠れたのに」
 離れようとしたエーリヒの手を両手で握りしめて懇願する。
「お願い。ひとりにしないで」
 昨日は拒絶したくせにこんなことを言うなんて、我ながら面倒だと思う。
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