婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 けれどクロエの中には、今までのクロエと橘美沙が混同している。心の揺れを、自分ではどうすることもできずにいた。
「クロエが望むなら、俺はずっと傍にいるよ」
 エーリヒは表情を和らげると、クロエの髪を優しく撫でてくれた。
 優しい言葉に、眼差しに安心して目を閉じる。
 目が覚めてもきっと、エーリヒは傍にいてくれるだろう。
 
 そのまま眠り続け、再び目を覚ましたときには、すっかり頭痛が消えていた。
 窓の外から見る空は暁色で、夕方近くまで眠ってしまったことを知る。
 ゆっくりと身体を起こそうとして、背後からエーリヒに抱きしめられていたことに気が付いた。
(温かいと思ったら……)
 クロエの身体は毛布に包まれていて、さらにこうして包み込むように抱きしめられていたのだから、寒さなど感じる暇はなかったようだ。
 約束を、きちんと守ってくれた。
 思わず笑みを浮かべながら、まだ眠っているエーリヒの腕からそっと抜け出す。毛布に包まっていたので、結構汗をかいてしまったようだ。
(お風呂に行こうかな?)
 この国では、浴室があるのは貴族の邸宅くらいだ。
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