婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 こうして家を借りることも、ギルドに登録することもできなかったに違いない。
「少し甘えすぎているくらいよ。ありがとう」
 それを伝えると、エーリヒの顔が少し和らぐ。
「役に立てていたのなら、よかった」
 でも、とクロエは言葉を続ける。
「たしかにエーリヒの言う通り、今の私達だったら王都を抜け出せるかもしれない」
 ギルドで実績を積んで国籍を取得しなくとも、クロエの魔法とエーリヒの剣技で強行突破することは、それほど難しいことではない。
 でもそうなったら、確実に追われることになるだろう。
 いくら力があっても、ずっと戦い続けられるほどクロエの心は強くない。
 エーリヒの負担も大きくなってしまう。
「私は欲張りなの。冒険の旅にも憧れるけど、穏やかな日常も捨てられない。だから今は、きちんとした手続きを得て、この国を出ていきたいと思っている。ごめんね、面倒なことに巻き込んでしまって」
「面倒だなんて思っていない。俺達は自分の人生を取り戻すために、あの場所を出た。クロエのやりたいことは、何でもやろう」
「……うん」
 やっぱりあの場所でエーリヒと会えてよかった。
 クロエはあらためてそう思う。
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