婚約破棄されたので、好きにすることにした。
「いや、先日は勘違いをしてしまって申し訳なかった。お詫びと言っては何だが、よかったら君に魔法を教えようかと思って。魔導師でも、あまりまだ魔法に慣れていないようだったから」
「……」
 魔導師に魔法を習える機会などそう多くはないし、あったとしても魔法書よりも高額な授業料が必要となる。
 それに魔力を持って生まれた魔導師は、自分の魔力を込めた魔石作りと魔法の指南で充分に暮らしていけるから、それほど魔法を教えたがらない。
 しかも彼は魔法ギルドのギルド員になるほどの腕前だ。魔導師や魔術師なら、そんな機会を逃すはずがない。
 そう思っているのだろう。
 でもクロエにとっては、正直に言うと迷惑でしかない。
(前と同じ。こちらの都合など一切考えていない、善意の押し付けだわ)
 周囲からは、魔法を報酬なしで教えてもらえるクロエを妬むような視線を感じる。
 しかも彼は不特定多数の人間の前でクロエに魔力があることを、魔導師であることを公言した。
 魔力持ちはこの国では貴重な存在だが、女性で移民のクロエにとって、それは危険を伴う暴露だ。
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