婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 もっと恋人らしくしないと駄目なのだろうか。
「そ、そういうわけでは……」
 慌てるサージェの言葉を遮るように、エーリヒがクロエの肩に腕を回して抱き寄せる。
「そんなはずがない。むしろ俺が、クロエに相応しい男にならなくてはならないのに」
「エーリヒ?」
 黒に変えた髪を優しく撫でられ、愛しそうな瞳で見つめられて、どきりとする。
「俺はクロエを守れるような男になりたくて、必死に強くなったのだから」
 恋人のふりの延長だと思うには、あまりにも真剣な言葉だった。
(本当に、私のために?)
 軽く受け止めてはいけない。
 ちゃんと決意を伝えよう。
 そう思ったクロエは、エーリヒを見上げて柔らかな笑みを浮かべる。
「嬉しい。私も、もっと頑張るわ。あなたの隣に立っても、誰からも文句を言われなくなるくらい」
「クロエ……」
 優しく名前を呼ばれて腕の中に閉じ込められる。
 抱き合うふたりを前に、周囲から冷たい視線がサージェに向けられた。
 一部には、こんなにも想い合っているふたりを疑うような言葉を投げかけたせいで。
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