婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 でもクロエは、魔女の力に目覚めていなかっただろう。
 キリフとも婚約したままで、王族の婚約者を連れ去ったエーリヒは、おそらく誘拐犯として追われることになっていた。
 ふたりで力を尽くせば逃げられたかもしれないが、過酷な旅になるのは間違いない。
 だから。
「私は今でよかったと思う。だって以前の私なら、もしエーリヒが傷ついても何もできなかったわ。そんなのは嫌よ」
 どんなに傷ついても、エーリヒはクロエのために戦うだろう。
 それを黙って見ているだけなんて、耐えられない。彼を助けようとして、自分から父の元に戻っていたかもしれない。
「だから、これからもずっとふたりで幸せに生きるためには、今が一番良かったのよ」
 そう告げると、エーリヒは感極まったようにクロエを抱きしめた。
「ああ、もちろんだ。ふたりで幸せになろう」
「……ま、待って。ここ、町の中……」
 エーリヒの銀髪も、見惚れるほどの美貌も、ただでさえ町で目立ちすぎるのに、そんな彼に道の真ん中でしっかりと抱きしめられている。
 周囲の視線が集まっているのを感じて、思わず頬が熱くなる。
 きっと真っ赤になっているに違いない。
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