婚約破棄されたので、好きにすることにした。
「ねえ、エーリヒ……」
 何とか腕から逃れようとすると、逃がさないとでも言うように、ますます強く抱きしめられた。
 力強い抱擁は、少し苦しいくらいだ。
「……エーリヒ?」
 人前ではなるべくやめてほしい。
 何せこちらは、シャイで内気な元日本人である。
 そう言おうとしたクロエは、エーリヒが切なそうな、悲しみを押し殺しているかのような顔をしていることに気が付いて、言葉を失う。
「クロエ。愛している」
 耳元でそう囁かれて、目を見開いた。
 これも演技なのかと、聞くことができないほど真摯な声。
 驚きのあまり声も出せずにいると、エーリヒはふと力を抜いて、クロエを手放した。
「……なんてね」
 寂しげな笑顔を浮かべて離れようとする。
 そんな彼を、今度はクロエから力一杯抱きしめた。
「クロエ?」
「私も、エーリヒのことが好き」
 ここできちんと自分の気持ちを伝えないと、エーリヒはもう二度と愛を伝えてくれないだろう。
 それがわかったから、クロエも素直にそう告げる。
 ここで恥ずかしいなんて言っていられない。
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