婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 たしかに『クロエ』としての記憶は薄れているが、まったく思い出せないわけではない。
 まず『クロエ』が、騎士見習いだったエーリヒに恋をした。
 たしかに一目見たら忘れられないほど綺麗な少年だったけれど、惹かれたのは外見ではない。
 父にも兄にも逆らえずに気弱だったクロエは、訓練と称してどんなに殴られても、けっして折れない彼の強い心に惹かれたのだ。
 そして『橘美沙』として、一緒に暮らすようになったエーリヒに恋をした。
 彼は、クロエとして生きていたときに負った心の傷を、少しずつ癒してくれた。
 自分に自信のなかったクロエを綺麗だと、あんな奴らには勿体ないと言ってくれた。
 やりたいことは何でもやろうと、今までの人生を取り戻す手伝いをしてくれた。
 それに加えてあんなに大切に、かけがえのない宝物のように扱われてしまったら、恋をしないはずがない。
 クロエには婚約者がいた。
 そしてエーリヒは王女に囚われていた。
 だから、互いにずっと伝えられなかった。
「好きだったのよ。もう、ずっと前から」
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