婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 その言葉を聞いたエーリヒは息を呑み、それから彼の顔も見慣れてきたクロエでさえ見惚れるほど綺麗な顔で、嬉しそうに笑った。
 それを見て、クロエの胸にも言いようのない幸福感が満ちる。
「クロエ、本当に?」
「ええ。演技だなんて言わないわ」
 そう言うと、今までさんざん演技だ、そういう設定だと言ってきたことを思い出したのか、少し気まずそうに視線を逸らす。
 言葉にして伝えたら気持ちがさらに大きくなったようで、そんな姿すら愛おしく思える。
「私の愛はふたり分だから」
「ふたり?」
 不思議そうなエーリヒに、こくり頷く。
「ええ。いつか話すわ」
 今のクロエはエーリヒが愛した存在とは少し違ってしまったけれど、それでも彼には自分のすべてを知ってほしい。
 ふと、揶揄するような声が聞こえてきて我に返った。
 人通りの多い道の真ん中で抱き合っていたことを思い出して、慌ててエーリヒから離れる。
 代わりに手を差し伸べられて、迷うことなく握りしめる。
「ねえ、エーリヒ。私達ってこれからどうするの?」
「これから?」
「うん。設定として恋人同士だったけど、これからはどうしたらいいのかなって」
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