婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 一応、互いに想いを告げたのだから、設定ではなく本物の恋人同士になれるのではないか。
 そんな期待を込めた言葉だった。
「それはもちろん、夫婦で」
「はっ?」
 けれどエーリヒの答えは、クロエの想像よりもさらに上だった。
「夫婦? 結婚していないよ?」
「ああ、そうか。まだできないのか。じゃあ、ギルドで出世して国籍を得たら、すぐに結婚する予定の婚約者かな」
 そう言って、嬉しそうに笑う。
「婚約者」
 その言葉で、ふと元婚約者の顔が浮かんでしまった。
 クロエの人格などまったく認めてくれない、高圧的な言葉と視線。
 ただ怯えて従っているだけの日々を思い出してしまう。
「クロエ」
 ふと優しく名前を呼ばれて、我に返る。
「クロエの婚約者は、もう俺だから」
 絶対に守るという強い意志と、過去を気遣う優しい色をその瞳に宿して、エーリヒがきっぱりと宣言する。
「……うん」
 繋いだ手に力を込めて、クロエも心の中で誓う。
(あの王女には、絶対に渡さないわ)
 きっとこのままでは終わらない。
 王女はまだ、エーリヒに執着している。
 いつか彼女と対決する日が来るかもしれない。
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