婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 エーリヒが連れて行ってくれたのは、老夫婦が経営している町食堂だった。きっとこの食堂なら、他の女性にしつこく声をかけられることもないのだろう。
 ふたりは移民の姿をしているクロエにも、普通に接してくれる。
 いつもは持ち帰りで買ってきてくれるが、せっかくなのでここで食事をしていくことにした。
 クロエはチキンとハムのサンドイッチにスープ、フルーツタルトを注文する。どれもおいしくて、つい食べ過ぎてしまった。
「また来てね」
 そう言ってほほ笑む老婦人に必ず来ると約束し、町にお弁当の材料を買いに行く。
 おいしいものを食べた直後だったので、いつもより張り切って、たくさん材料を買ってしまった。それなのにエーリヒは、その荷物をすべて持ってくれた。
「ごめんなさい。重いでしょう?」
 片腕で持つには思いだろうと、クロエは繋いでいた手を放そうとした。
「いや、これくらい何でもない」
 でもエーリヒは手を放してくれなくて、むしろもっと強く握られた。
 人前で手を繋いだりするのは、やっぱり少し恥ずかしい。
「クロエとこんなふうに町を歩けるなんて、まだ夢のようだ」
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