婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 アダナーニ王国の第二王子キリフは、苛立ちを隠そうともせずに部屋の中を歩き回っていた。
 数年前に父によって勝手に決められた婚約を、キリフはずっと忌々しく思っていた。
 だが異母兄(あに)が王太子になることが決定してしまった以上、身の振り方を考えなくてはならない。有力貴族であるメルティガル侯爵の娘は、たしかに婚約者としては最適だった。
 しかもメルティガル侯爵は、騎士団長でもある。
 この国の軍事力を握る男を身内にできるのは、いずれ臣下にならなくてはならない自分にとって有利になる。
 そうわかってはいても、地味で気弱な婚約者のことは最初から気に入らなかった。
 老婆のような白髪に、色の薄い水色の瞳。
 その薄い色彩のせいで、顔の印象などほとんどない。
 メルティガル侯爵家の娘でなければ、何の価値もないような女だ。
 それなのに何を勘違いしているのか、自分に付きまとってくる。
 おそらく王族の婚約者という地位を何としても失いたくないのだろう。
 王城で夜会が開かれたとき、恋人の男爵令嬢と参加したキリフに、いつも怯えたような目をしたあの女が、必死に縋ってきたのだから。
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