婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 カサンドラは王女だったから、わがままに振る舞うことができた。
 それが許されたのだ。
 もし前世の記憶が蘇らない状態で、クロエが魔女だと判明してしまっていたらと思うと恐ろしい。
 ほぼ間違いなく、父の言う通りに動く人形になっていただろう。
「むしろ婚約を解消してくれたキリフ殿下に、感謝したいくらいよ」
「そうだな。俺も、そう思うよ」
 エーリヒは同意するように頷くと、黒に変えたクロエの髪にそっと触れる。
「色彩なんかに惑わされて、この美しさに気付かない男になんか、クロエは勿体ない」
「……っ」
 婚約者だったキリフは、クロエのことを地味で目立たない。花のない女だと散々貶めた。
 前世の記憶が蘇っても、そのときの胸の痛みは忘れていない。そのつらい記憶が、エーリヒの優しい言葉で消えていくような思いがした。
「ありがとう」
 心からそう言って微笑むと、エーリヒは、まるで真夏の太陽を見るかのように、眩しそうに目を細めた。
 何だか照れくさくなって、クロエは疑問に思っていたことを口にした。
「えっと、魔女と魔導師って、具体的にどう違うの?」
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