婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 でもエーリヒがそう言ってくれたので、ふたりで出かけることにした。
 それでもなるべく姿を隠すようにローブを羽織ってから、町に繰り出す。
(わぁ、すごい人……)
 さすがに王都は、人で溢れていた。
 とくに商店街がある大通りは、歩くのも大変なくらいだ。
 買い物に出てきた住人に、流れの商人。
 旅人に、冒険者の姿もある。
 小柄なクロエは人混みに流されそうになり、慌ててエーリヒに近寄る。
(ああ、懐かしいこの感じ。通勤ラッシュを思い出すなぁ)
 人波に揉まれる感覚を懐かしく思っていると、エーリヒが手を差し出した。
「はぐれると大変だ。手を繋ごう」
「えっ」
 一瞬躊躇うが、たしかにこの人混みの中ではぐれてしまったら、探すのが大変だろう。ほとんど出歩いていないクロエは自分の家もわからない。
 そっと、エーリヒの手を握る。
「うん。ありがとう……」
 クロエが男性に慣れていない侯爵令嬢だったこともあり、こうして手を繋ぐだけで少し緊張してしまう。
「今さら何を。同じベッドで眠っている仲なのに」
「だから、そういうこといわないで! それにあのベッドを経験したら、他のものじゃ満足できないから」
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