婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 それに逃亡中のせいか、ひとりだと不安になる。
 クロエの記憶はだいぶ薄れているが、それでも父や婚約者だったキリフに追い詰められて、震えながら目を覚ますこともある。
 そんなときに隣にエーリヒがいると、ひどく安心するのだ。
(でも……)
 思えば前世でも趣味に全力だったせいで、恋はあまり経験してしなかった。
(恋はもう少し後でも大丈夫だから、今は好きなことを全力で楽しもう。そう思っていたのよね)
 原因はわからないが、その後の記憶がないことを考えると、恋を楽しむ暇もなく早死にしてしまったのだろう。それを思うと、手を繋ぐだけで緊張してしまう自分が少しかわいそうになる。
 今回の人生では、恋もしてみたいものだ。
 そんなことを思いながら握ったエーリヒの手は、思っていたよりもずっと大きくて、少しだけ胸が高鳴る。
 優美な外見で忘れてしまいそうになるが、彼は騎士なのだ。
「行こうか」
「うん」
 手を繋いで、大通りを歩いた。
 まず、最初に水晶を売っている店に向かう。
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