婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 もう何度もこうやって会っているから、いまさら緊張することもない。
「あ、この焼き菓子おいしいね」
 すぐ隣に住んでいる、結婚したばかりの若い女性が、そう言ってしあわせそうに微笑む。彼女は食べることが大好きで、おいしい店の情報をたくさん教えてもらった。
「エーリヒが買ってきてくれたの。大通りにある店らしいわ」
「あのものすごく美形な旦那さまかぁ……。やっぱり奥さんには優しいんだね」
 焼き菓子をうっとりと眺めていた彼女がそう呟く。
 一緒に暮らしているので、友人たちは夫婦だと思い込んでいるようだ。
 クロエもわざわざ否定しなかった。
 理由を説明するには、色々と事情がありすぎる。
 そしてあれほどの美形なのに、近所でのエーリヒの評判は微妙なものだ。とにかく無愛想なようで、クロエが友人たちに挨拶をしても、隣で軽く頭を下げたら良い方だ。
 そういえば彼は、女性不審だったと思い出す。クロエにはいつも優しいから、すっかり忘れていた。
「エーリヒはとても優しいのよ。強くて頼りになるし」
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