婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 ようやく目を覚ましたエーリヒに、クロエは手早く朝食を作りながら文句を言っていた。
 でも、まだ眠そうにぼんやりとしている彼は、あまり聞いていないようだ。
「もう……」
 恥ずかしさを誤魔化すために、怒ったように言いながら、焼いたパンの上に卵とチーズ、そして薄切りのハムを乗せた。
「はい、どうぞ。でもそんなに寝起きが悪くて、よく近衛騎士が勤まったわね」
「城では、ほとんど眠れなかった。あの屋敷でもそうだ。でも、クロエの傍はすごく心地良い……」
「……っ」
 まったく動じていない彼に少し嫌味を言うつもりが、その言葉にかえってクロエのほうが動揺していた。
 たしかエーリヒは公爵家の庶子で、父親に引き取られはしたが、息子としては扱ってもらえなかったと聞いていた。育った家でも、その後勤めた王城でも常に気を張っていたのかと思うと、文句を言い続けることなどできなかった。
「そ、そうなの? まぁ、ゆっくり眠れたのなら、いいけど……」
「うん、クロエのお陰だ。とても助かっている」
 まだ寝惚けているのかと思っていた。
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