前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

22、別の道

 ルティアの前世では、罪人である女性はよっぽどの罪過を除き、修道院へ行くのが普通だった。

 その価値観を持って生まれ変わったルティアは、自分が行きつく場所は修道院だと決めつけていた。だからテオバルトに別の道もあるのではないかと言われ、大きな衝撃を受けた。

(確かに殿下の言う通りにすれば、両親も悲しませずにすむ)

 より裕福な家庭へ嫁げば、慈善事業に理解ある夫と結婚すれば、それだけ寄付金も増やせるだろう。

(……いいえ。やはりだめよ)

「結婚するということは……夫婦仲を良好にする必要がありますよね」
「まぁ、最初から仲が悪い関係を望む夫はなかなかいないだろうな」

 あるいは愛人がいる夫ならば別かもしれないが、そんな不道徳な関係に成り立つ家庭をルティアはもう築きたくはなかった。

「やはり、結婚はできません」
「夫の幸せは、妻の幸せだから?」
「ええ……わたしは幸せには、なっていけないんです」
「家族を持つことで、幸せがどういうことかわかることで、得られない人々の苦しみも理解できるんじゃないか」

 そうだろうか。テオバルトの言葉はどこか傲慢にも聞こえた。

「それに貴族の夫人ならば、一家の女主人。自由に扱える金がある。寄付金の額が決められる。厳しい規律のある集団生活で暮らす、一介の修道女にはできないことが簡単にできる」

 彼の言う通りだ。ルティアは何かを決められる立場にはなれない。なるとしても、努力や年月が必要とされる。もし貴族の夫人ならば、その間にできることがたくさんある。

(でも……)

 ルティアはテオバルトの顔を見た。

「もし、結婚するとしても――」
「俺ではない他の相手を選ぶ、というのはあまりお勧めしないな。俺ほど身分と財力がある人間は国内ではそうそういないしな。兄上たちにはもうすでに婚約者がいるから、除外される。他の目ぼしい貴族も、だいたい相手が決まっている。売れ残りは性格や素行に少々難ありで、慈善事業に協力してくれるのは難しいと思うぞ。かといって、うんと年の離れた相手や、子持ち相手も、ご家族が心配するのが目に見えている」

 やはり結婚相手は自分しかいない、とテオバルトは自信満々にアピールした。

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