可哀想な猫獣人は騎士様に貰われる
 ◇


 異母弟が結婚するらしい。

 吉報とは思えぬほどの淡白な文章を流し読みしながら、ヴァレリアンはふっと小さく笑った。

「いかがされましたか、陛下」
「伯爵が近々結婚するそうなんだ。祝いの品を用意しないとね」
「おや、それは喜ばしい。式はどちらで?」
「さあ。そもそも招待してくれるかな」
「ご冗談を」

 冗談ではないのだコレが。ヴァレリアンは側近の言葉に笑みを返す。

 公には赤の他人として見做されている異母弟──オーランドには、昔から窮屈な想いをさせてきた。

 側妃が認められているブルーム王国では、本来ならオーランドのことも正式な王子として迎え入れることが可能だった。しかし当時は正妃が病によって急逝したことで王宮の状況がよろしくなく、立太子の儀を控えたヴァレリアンはもちろん、要らぬ心配をした臣下がオーランドを始末しようと動く可能性もあった。

 そのため亡き先王はオーランドの存在を隠匿することを決め、子のできなかった伯爵家の養子に据えたのである。

 オーランドはヴァレリアンの地位を脅かしてはならないと己を律し、表舞台に出てくることもほとんどない。類まれなる剣術の才も、機転の利いた頭脳も、何ならその異国の香りを漂わせた美貌すらも、ブルーム王国民には広く知られていない。

 非常に勿体ない──ヴァレリアンは罪悪感に駆られながらも常々思っていた。

 その功績に応じて爵位や領地を与えることは出来ても、それがオーランドの幸福になり得るのかは分からなかった。何せ彼は褒美を自ら求めない質だったので、ヴァレリアンがほいほい与えるものをとりあえず受け取っているような状態だった。

 それが。

『この娘を、傍に置いてもよろしいでしょうか』

 アゼリア王国の革命に、ブルーム王国が関わっていた証拠はなるべく消さねばならない。オーランドの顔を覚えている者は特に。頭ではそう理解しながらも連れて来てしまったと、彼は少しばかり気まずそうに言った。

 馬上でそれはそれは大切そうに獣人の娘──ジルを抱える異母弟に、ヴァレリアンはしばし呆けて、やがて満面の笑みで許可を出したのだ。


「式はフォーサイスで挙げるだろうな。呼ばれなかったら変装してでも行くしか……」

 初恋が実って浮かれているとはいえ、オーランドの徹底ぶりは健在だ。「俺と陛下の顔が似ていると思われたらどうするのですか」などと真顔で参列を断ってくる可能性は十分にある。

 そこを何とか説得するか出し抜くかしなければ──ヴァレリアンは久々に呑気な策略を巡らせたのだった。


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