【書籍化決定】転生もふもふ令嬢のまったり領地改革記 ークールなお義兄様とあまあまスローライフを楽しんでいますー

39.ルネ・ルナール、幸せの預言を受ける

 ここは、ドラゴンの巣の中である。

 今日も、ギヨタンと一緒に、治療にやってきているのだ。
 リアムもバルも一緒である。
 テオも一緒にやってきて、コツコツと階段の整備をしてくれている。

 ドラゴンの体調はドンドン良くなっていくようで、日に日に白く輝いていく。

「どうやら、王太子妃にはならずにすんだようだな。それで、リアムと婚約予定か」

 ライネケ様が笑う。

 テオは一瞬手を止め、金づちを落とした。
 カラン、と音が響き渡る。

 私がそちらを見ると、テオと目が合う。
 テオは、泣きそうな瞳で礼すると、慌てて金づちを拾った。

 スウと息をすうと、カン・カン・カン・カン・カン……と十回金づちを叩く。
 私を見ない口元が「おめでとうございます」と形を作った。

 私も唇だけで「ありがとうございます」と返す。

「えー!! 婚約予定って、どういうことだよ!!」

 バルが言う。
 バルとリアムは、ドラゴンの背中の上をデッキブラシで磨いていた。

「王太子があまりにもしつこいから、ルネの立場を明確にすることにしたんだ」

 リアムが説明する。

「でも、おかげで当分、王太子は王宮から出てこられなくなったの! 王太子殿下は謹慎処分ですって!」

 私が言えば、バルは喜んだ。

「そっか! 良かったな!!」

 でもさ、そう言ってバルはリアムをジト目で睨む。

「そういうことならさぁ、オレに前もって話してくれても良かったじゃん」
「なんでバルに言わなければいけない?」

 リアムがバルに答える。

「水くさいってヤツだよ……。それにさぁ、オレだってさぁ……」

 歯切れ悪くゴニョゴニョとバルは呟くが、私には聞き取れない。

「余計なことは考えるな」

 リアムがバルに答え、いつものイチャイチャがはじまった。
 しかし、場所はドラゴンの背中の上である。

(ああ、人間がうるさい)

 ドラゴンはぼやきつつも、ふたりを振り落とそうとはしない。

「あっ! なんか、ドラゴンの背中が白濁してる」

 バルが気がつき声を上げる。

(そろそろ脱皮の時期だな)

 ドラゴンが答える。

「次の脱皮ですか? その皮は食べられそうですか?」

 私はドラゴンに尋ねる。
 ドラゴンの脱皮した皮は、腐るとモンスターになってしまうのだ。普通であれば、ドラゴンが食べてしまうので腐ることはない。
 しかし、以前のドラゴンは、食欲不振で食べきれず腐らせてしまっていた。

(食欲は戻ってきたからな。食べ切れるだろう)
「良かった!! 今度の脱皮は食べ切れるみたいです」
 
 私がみんなに伝えると、口々に喜ぶ。

 ドラゴンはため息をついた。
 ライネケ様はニヤニヤ笑っている。

(人間は愚かなのだろうか? 愚かなのだろうなぁ)

 ドラゴンが言い、私は小首をかしげた。

(私の鱗は役に立つのだろう? 食べてしまったら損だろうが)
「ああ! でも、元気になった証拠です! みんな嬉しいですよ」

 私が答えると、ギヨタンも同意する。

「そうですよ、はやく元気になって、ドラゴンの本気が見たいです!! 口から火が出ますか? どれくらいの速さで飛べます? 私、乗せてもらえますかね? 乗せてもらえますよね?? だーって、こんなに身を粉にしてお世話してるんです。少しは恩を売りつけても良いですよね??」
(お前はもう口を開くな)

 げんなりした様子で、ドラゴンはため息をついた。

(まぁ、恩着せがましく色々言われるのも嫌だしな。ルナールに世話になっているのも事実だ。皮を食べるのは、栄養不足を補うためだし、代わりになる栄養をくれさえすれば、私は鱗にこだわる必要はない)

 ドラゴンがブツクサという。
 私は小首をかしげた。

 ライネケ様が笑って私の頭を撫でた。

「食事を運んでくれれば、脱皮した鱗をくれるそうだ」
「!! 本当ですか!?」
(……まぁ、そういうことだ。擬似魔鉱石だとかいったか? あれを作れば良い)
「ありがとうございます!! ねぇ、リアム! ドラゴンさんが脱皮した鱗を使って魔鉱石を作っても良いって!!」

 私が声を張り上げると、リアムとバルはドラゴンの背中から降りてきた。
 そして、ドラゴンの顔の前で、深々と頭を下げる。

「「ありがとうございます」」

 テオも、階段を整備する手を止めて、「ありがとうございます」と手を合わせた。

(フン、別に)

 ドラゴンはそう言うと、ふて寝をした。

「ドラゴンのくせに狸寝入りが得意なやつでな」
 
 ライネケ様がそう笑うと、ドラゴンはダシンと地面を打ち付けた。

「おおこわい、おおこわい」

 ライネケ様は笑っている。

「じゃあ、もう少し、ドラゴンの背中を磨こうか」

 リアムがバルに呼びかける。
 ふたりは、マッサージ代わりにドラゴンの背中をデッキブラシで擦っているのだ。

「私も、羽を磨きに行く!」

 私は柔らかな布を持って、ふたりについていった。

「また、鱗をもらえるなら、今度は流通させても良いかもしれないね」

 リアムが言う。

「鱗に塗るニスも、もっと工夫して綺麗にしたら良いんじゃない?」

 私が提案する。

「そうだな。修道院には絵が上手いヤツ、いっぱいいるし」
「日常使いできる安価な物と、芸術品のような高級品と、作り分けてみようか」

 ワイワイと相談する。
 
 またひとつ、ルナール侯爵領が豊かになる手段が増えそうだ。

「嬉しいな」

 私は天井を見上げた。

 天井の忌まわしい封印は解かれ、青い空が広がっている。
 おかげで、ドラゴンの周りには草花が生い茂りだした。
 蝶々が舞い、蜂が飛ぶ。
 昏くて闇の満ちていた場所だとは到底思えない。

 柔らかな風が吹いてくる。
 日差しも温かい。

「早く飛べるようになると良いね」

 私はドラゴンの翼を拭く。
 固くなっていた翼も、段々と柔らかくなってきた。
 きっと、また飛べるようになるだろう。

 ドラゴンが飛ぶルナール領を夢想して、すこしおかしかった。

 ドラゴンは伝説の生き物で、みな険しい山や崖など、人の近寄れない場所に住むという。

 それが、人とこんなに仲良いだなんて、誰が信じるかしら。

 パタパタと尻尾が揺れて、ドラゴンの背中に当たる。

(こら、ルネ、くすぐったいぞ)

 ドラゴンが笑い、背中が揺れる。

「わぁ! どうした!?」
「危ない! ルネ!!」

 リアムはデッキブラシをほっぽり出して、私を抱きしめた。
 私も尻尾で抱きかえす。

 ふたりで見つめ合い、幸せを噛みしめる。

「おーい、そこ、イチャイチャすんなよー!」

 バルがデッキブラシを振り回す。

 カン・カン・カンと、テオが金づちを鳴らすが、意味はわからない。

「リアム様とルネ様の子供は私が取り上げてあげますからね」

 ギヨタンが言い

「気が早いです!!」

 とリアムが怒る。

 ライネケ様がやってきて、私の頭をヨシヨシと撫でた。

「ルネ。お前は幸せかい?」
「はい、とっても幸せです!」

 私は自信満々に答える。

「これも、ライネケ様のおかげです」

 ペコリと頭を下げる。

「やはり、我が輩は偉大だな」

 ライネケ様は満足げに胸を反らした。

<妾を忘れるではないぞ>

 半透明のダーキニー様が現れる。

<私も協力したのだが?>

 葛の葉様まで現れた。

「もちろん、お狐様達のお力すべてに感謝しております」

 私は深々と頭を下げた。
 ふたりは満足そうに頷いた。

<しかし、まだ、こんなものではないぞ>
<そうです。米を植えましょう。おいなりさんを供えましょう>
「ワインだ! ワイン! ライネケ印のワインを王国全土に広げるのだ!!」

 賑やかなお狐様達に、ギヨタンが便乗する。

「ルナールの草花で、他の薬も作りたいですねぇ。センチメンのように特産物を作りましょう!」
「……あの、あの、運河の話もお忘れなく……!」

 テオが珍しく声をあげた。

「まだまだ、ルナールは良い領地になりそうだね」

 リアムが嬉しそうに笑う。

「うん!」

 私が微笑むと、バルがデッキブラシを振り上げた。

「オレも頑張る!! もっと、もっと、強くなって、ルナールを守れるようなすごい男になってやる!!」
「バルならなれるよ」

 私が言えば、バルは照れたように顔を赤らめた。


 みんなの力が合って、豊かになりつつあるルナール領。
 きっとこれからも、みんなで協力し合って、より豊かになっていくだろう。
 
 そんな未来を想像して、ワクワクする。

 リアムが私の手をギュッと握る。
 そして、決意を秘めた目で空を見た。

「一緒に幸せになろうね、ルネ!」
「うん!」

 私が答えると、ドラゴンが小さく羽ばたいた。

(おまえたちならなれる)

 白ドラゴンが言う。

「精霊ライネケ、ここに預言する『ルネ・ルナールは幸せになる』」

 ライネケ様がそう言うと、私に後光が輝いた。

「ちょっと、ライネケ様やり過ぎです!!」
「ちょっとした演出だ」

 ライネケ様が笑い、ドラゴンが笑う。
 リアムは眩しげに私を見た。

 洞窟の中は、笑い声と光で満たされていた。



                             おしまい

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