貴方はきっと、性に囚われているだけ

デート

 連絡先を交換してから、連日というほど琉斗からアプローチのメッセージが届くようになった。受け流してはいるが、どの言葉も愛しているや好きだなどの在り来たりな言葉だが、一葉にとっては嬉しい言葉ばかりだった。そんなメッセージを受け取っている最中、デートの内容の書かれたメッセージが届いた。迎えに来てくれるとのことだったが、行先までは書かれていなかった。行ってからのお楽しみということなのかもしれない。ちょうど、その日は花梨と海翔がデートをすると言っていた日と同日だった。


 デート当日。一葉はお気に入りの水色のチュニックに身を包み、今日ばかりはデートということもあり首には紺色のチョーカーを付けて玄関先で待った。家族には友達と遊びに行くと言っておいたが、双葉あたりは気付きそうだ。そんなことを思っていると、バイクに乗った琉斗が迎えに来た。様になり過ぎている琉斗に見惚れていると、琉斗が此方にヘルメットを寄越した。
「後ろに乗って」
「は、はいっ」
 ヘルメットを被り、琉斗のすぐ後ろのシートに座る。落ちないように琉斗の腰に腕を回すと、細身ながらがっしりとした肉体に驚いた。
「じゃ、行くよ。しっかり捕まっててね」
「はい」
 ギュッと回した腕に力を籠め捕まると、エンジンを吹かしバイクが走り出した。


 着いたのは水族館だった。デートスポットとしては最適な場所に、一葉はホッと息を吐いた。これでゲームセンター等だったら、運動が苦手な一葉には楽しめなかっただろう。
「水族館、嫌だった?」
「いえ、寧ろ嬉しいです」
「良かった。じゃあ行こうか」
 ヘルメットを手渡すと、バイクに収納する琉斗。そっと手を繋がれ、心臓が跳ねる。そんな一葉を余所に、琉斗は一葉を引き連れ水族館の中に入っていった。
 優雅に泳ぐクラゲや大きな水槽の魚たちを見ながら、ゆっくりと薄暗い館内を見て歩く。最後にイルカショーのブースにやってきて、琉斗が手を引いた。
「折角だし、イルカショーも見よう」
「はいっ」
 イルカが好きな一葉にとって、最高の一言だった。中腹あたりの席に座り、イルカショーを眺める。目を輝かせながらショーに夢中になる一葉に、琉斗は微笑んでいた。

「お土産買わなきゃね」
「そうですね」
 そう言いながら、お土産ブースに入っていく二人。気付くと、今の今まで手を握ったままだったことに気付いた。
「あ、あの、立花先輩っ」
「ん? どうしたの」
「その、手を離して頂きたいです」
 一葉の言葉に、同じく忘れていた琉斗は手を離した。少し残念そうな顔をしているように見えるのは気の所為だと思おう。ゆっくりと一つずつお土産を見ていると、花梨の好きそうなペンギンのストラップを見つける。
(花梨にはこれにしよっと……家族にはお菓子でいいわよね)
 考えながら、一つずつ籠に入れていく。ふと、目の前に大きなイルカのぬいぐるみが陳列されていた。
「か、可愛い……っ」
 つい言葉にでてしまった。それくらい、一葉にとって魅力的な商品だった。すぐさま値段を確認するが、予算オーバーだ。仕方なく、元の場所に戻す。するとそれを横目で見ていた琉斗が、自身の籠にぬいぐるみを入れてしまった。
「へ、先輩?」
「これは僕から君へのプレゼントってことで。ね?」
「で、でも……っ」
 慌てて籠から取り出そうとすると、籠を持ち上げられてしまう。ここでそんなことをすれば、他の来場者に迷惑になってしまう。一葉は右往左往した。
「ね、いいだろ? その代わり、お揃いのストラップを買おうよ」
「うう……わかりました」
 そう言って、二人は側にあったイルカのストラップを籠に入れ、レジへと向かったのだった。
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