誰の子か分からない子を妊娠したのは私だと、義妹に押し付けられた~入替姉妹~
子爵家には令嬢が二人いる。
 私と義妹。
「じゃあ、私、今日は義姉様の代わりに舞踏会に行ってあげるわ!感謝してよね!」
 どぎつい紫のドレスを身に着け、義妹が馬車に乗り込んだ。
 今日は、どこの令息が迎えに来ていたのだろう。既婚者かもしれない。馬車にどの貴族が分からないように、紋章を外した馬車なのだから。
 義妹と私の容姿はよく似ている。同じように化粧をしてしまえば見分けがつかないと言われるほどだ。
「この、髪の色を除けばね……」
 妹は綺麗な金髪。私はくすんだ茶色。
 義妹はくすんだ茶色のカツラをかぶって、私のドレスを着て舞踏会へと3日と開けずに向かう。
 子爵家には令嬢が二人いる。
 天使のような微笑みで清廉潔白、天使のようなアイリーン。
 自由奔放で我儘、見持ちの軽い悪女のヴァイオレッタ。
 アイリーンはそのほほえみで男たちを魅了するけれど、誰の手も届かない。
 ヴァイオレッタはその色香で男たちを誘惑し、誰とでも寝る娼婦のような女。
 子爵家には対照的な令嬢が二人、それが世間の評判だ。

「本当はどちらもアイリーンなんだけどね」
 本物のヴァイオレッタである私は、義妹であるアイリーンが出て行った部屋の片づけをしていた。
 脱ぎ散らかされた服に、選ぶためにと放り出されたドレス。
 カツラから抜け落ちた毛や、おしろいの粉で床は汚れていた。
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