誰の子か分からない子を妊娠したのは私だと、義妹に押し付けられた~入替姉妹~
「さっさと、ここも片付けてよ!そっちも汚れてるわよ!」
 妹の侍女が雑巾を私の頭の上から落とす。
 しっかり絞り切っていない雑巾から、ぽたぽたと床に水滴が落ちた。
 頭はぐっしょりと濡れてしまう。
 雑巾を頭からおろし、バケツに入れ、エプロンで頭を拭く。
 その様子を侍女が腕を組んで見下ろしていた。
「何?雑巾を取ってあげたというのに、お礼の一つも言えないわけ?これは、アイリーン様に叱ってもらわないといけないわね」
 ニヤニヤと楽しそうに笑う侍女の顔。
「おい、ヴァイオレッタはいないか!」
 お父様の声に、侍女が雑巾を慌てて絞る。
「はい、お父様」
 立ち上がってドアを開くと、怒った表情のお父様が部屋の中の様子をちらりと一瞥する。
「もうアイリーンは出かけたんだろう?準備の手伝いも終わったくせに、何をさぼっている!さっさと来て書類の整理をしろ!」
 お父様が、私の腕を強くつかんで引っ張った。
 視界の端で、侍女が雑巾で床を拭いているのが見える。
「全くヴァイオレッタは根性が腐ってるな。社交界嫌いのお前の代わりに、アイリーンが舞踏会に出て、わざわざお前の婚約者を探してくれてると言うのに」
 確かに、私は社交界は好きではない。それは嘘ではないけれど……。
「お前は部屋でさぼりか。本当にろくでもない。私の子でないというのに、養ってやってるんだぞ」
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