逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 国境から来てくれた兵だった。争う声が聞こえて馬車から引き返したのだ。

『お前、国境警備隊の兵だな』
 ギースはその顔を知っていた。
『確か、この時期は無断で国境を離れたら厳罰になるんじゃなかったか』
 この間まで所属していた彼はその規則を知っている。

 問われた兵が青くなった。

『ま、待って』
 ソフィーが割って入った。

『私が無理に呼び出したのよ、だから彼の罪じゃないわ。罰するなら私を罰して』

『へえ、そうかい。だったら素直に着いて来るんだな』

 うなずくしかなかった。

 出発した馬車が次第に遠ざかって行く。それだけが救いだった。


          * * * 

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