『苦しめてごめん・・』―消せない過ちを悔いる日々―
 
 神尾の友里に対するやさしさ満載の発言を聞いて根米は焦った。

 自分の計画通りに運んでいない現状に。


 もっと友里に悪感情を持たせないと、と。だから神尾にこう進言した。


「彼女のお腹の子は他の男の子供で、もしかしたら中絶などしてなくて産むつもりかもしれないわよ。

 あなた、他の男の子供ができて捨てられたのよ。

 大丈夫だよ、私がいるから。

 たまにじゃなくて、ずっとこれからも慰めてあげるからさ」
 


 神尾は根米の顔を見つめる。
 この女は何を言ってる? 

 友里に中絶(堕胎)するよう助言してきたのはこの女で・・それなのに
友里が産もうとしているのは他の男の子供? ・・で、俺が捨てられた? 


 ずっと俺を慰めるってどういう・・。 
 

 根米の話を聞いて俺は頭が痛くなってきた。


「な、そのずっと慰めてあげるというのはどういうこと?」


「えー、今更そんなこと訊くかなぁ~、いやぁ~ん。

 私たち深い関係になった間柄なんだよ、決まってるじゃない。

 私が友里さんの代わりにあなたの奥さんになってあげるって言ってんのよ」



「俺と君とはそーいうんじゃないだろ?」


「今更、何調子いいこと言ってんの?

 ヤルことやっといてセクハラで訴えることもできんのよ。

 部下に手を出したなんてわかったら(知れたら)どうなるかしらね」
 


 あって無いような部下という組織上だけの関係性までわざわざ口にしてくる
根米菜々緒とのことは、今まで何かと話を聞いてくれる少しお節介な同僚としか
考えてなかったのに、突然牙を剥いてくるという現実を見せつけられ
神尾は根米の囁きにいつしか洗脳されて友里にしてきたことがどれほど身勝手で
酷い仕打ちだったかを・・同時に悟った。


 まさにこの時神尾の洗脳が溶けた瞬間だった。


「何を・・言い出すんだ」


「あ~、ごめんなさい。そうじゃなかったわね。
 
 私たち愛し合ってたからそーいうこといたしたんだったわね、神尾くん。 

 神尾くんったらぁ、私が友里さんのこと口にしたからちょっと取り乱しただけよね。

 分かってるぅ~、ごめんごめん。 
 
 もう友里さんのことも子供のことも言・わ・な・い。約束」


 目の前の女は普通に笑顔で小指を差し出してきた。

 俺の背筋がゾクっと震えた。

 事務所と店舗の間にある敷地で話していた為『仕事に戻る』と彼女から離れ
その場を後にすると、背後から言葉が投げられた。



「お疲れ様です。無理しないでね、じゃあまた明日・・」
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